ジェイフィール2022.09.06
「”不良債権”と思ったら、宝の山でした」
これは、『「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』という本の帯にあった言葉です。
バブル世代が50代に突入し組織の中で「ベテラン社員」の存在感が高まりつつある時代。
やる気がない、やり方が古い、柔軟じゃない、年下上司の言うことを聞かない...。
「ベテラン社員」の周りではこんな声があるようです。
しかし本当にそうでしょうか?
今回は、「ベテラン社員の活躍促進」に関して上記の著者であるジェイフィールの片岡裕司さんにお話を伺いました。
「ベテラン社員」とは?
- 本日はよろしくお願いします。まず、「ベテラン社員」とはどういう人を指すのでしょうか?
一般的には50代の中盤以降から、定年を迎える年までのイメージです。一口に「ベテラン社員」と言っても様々で、そのパターンは大きく3つに分かれます。
まずは、今まで管理職にならずに一般社員でずっと働いてきたパターン。また、役職定年制度という定年になる前に一般職になる制度があるのですが、その制度を通して55歳くらいで一般職になったパターン。最後に定年以降に再雇用という形で働いているパターンです。
特に、2つ目の役職定年の方は、ずっと頑張って課長から部長になった後に、役職を降りて一般職になるというタイミングで、なんとなく余生に入るというか、町内会のおじさんみたいな感じの意識になることが多い印象です。
一方で、55歳近くまで現場の第一線でバリバリ働いてきた方は、ずっと取り組んできたその業務がまだ必要とされていれば、引き続きバリバリ働いていたりします。
50代以上が85%以上を占める企業も
- 片岡さんの著書では「ベテラン社員の活性化」が一つのトピックになっていますが、企業にとってベテラン社員の活性化はよくある話題なのでしょうか?
そうですね、特に日本の上場企業では1980年代の中盤から後半にかけてのバブル期で大量採用しているので、その年代の方々がちょうど50代になったところです。私にご相談があるようなクライアントは、だいたい50代以上の社員の割合が組織の半分とか、一番多い所では85%以上を占めている状態なので、マジョリティなトピックになっています。
- 半分以上とは予想外でした...。このような企業は、具体的にどんなことに困っているのでしょうか?
ベテラン社員にどのような活躍の仕方があるのか、どのように活かせばよいのか、またどのように成長してもらえばよいのかが分からないなど、組織とベテラン社員との間にコンセンサスがなくて困っているケースがよくあります。
実は、組織におけるベテラン社員の比率が10〜20%のバランスだと、そういう問題ってあまり起きないんです。自分のやってきた経験を活かして若手のサポートをするとか、難しいクレームなどの対人的なストレスがかかる仕事を全面的に引き受けてくれたりとか、若手の相談相手になるとか、そういうことでよかったんです。こういうのは、よくあるベテラン社員像ですよね。
ただ先程の割合の話で言ったように、マイノリティだったベテラン社員がマジョリティになっていく過程で、そういうベテラン社員像が機能しなくなります。組織の中核としてやってもらわなきゃいけなかったり、新しいことに挑戦してもらわなきゃいけなかったりするわけです。そういう状況でも今までのベテラン社員像から切り替わらずに、ベテラン社員本人も自分自身の活躍の幅を狭めてしまうし、組織も組織で中堅とか若手ばかりに仕事を振ってしわ寄せがいってしまう。結果的に、バランスが悪くなってベテランとその他の世代の関係性が悪くなってしまいますよね。
そういうそれぞれが持っているレッテルを外して、50歳以降のキャリアの過ごし方みたいなものを、本人も組織もしっかり向き合わないとなかなか解決に近づかないのかなと思っています。
ダイバーシティの問題
- 「レッテル」はこのトピックでは大事な言葉な気がします。
そうですね。なんとなく、ベテラン社員は同一人種で、若者は多様だって思いがちなんですが、実はベテラン社員のほうがもっと多様なんですよ。ベテラン社員を対象にした研修のグループの自己紹介で、小さい子供がいてまだまだ頑張って働きたいんですという人の隣で、もう既に孫がいるという方もいるんです。
自分のライフステージによって仕事の位置づけは変わってきますよね。だからこそ、一人ひとりと丁寧に接していく必要があります。結局「ベテラン社員」というトピックは「ダイバーシティ」の問題なんですよね。なんとなく「ベテラン」というものにレッテルを貼られがちなので、「そうではないんだよ」ということは言いたいですね。
- ダイバーシティの問題と捉えると、見え方が変わりますね。この「レッテル」というのは、なぜ生まれてしまうのでしょうか?
やはり、本人の気持ちが実感として分からないというのが大きな要因だと思います。
例えばベテラン社員が55歳で、そのマネージャーが40代だとします。そのマネージャーは、自分が55歳で役職定年になって、自分の10個も年下のマネージャーについて仕事をするときの気持ちって想像はつくけど本当の所はわからないですよね。
レッテルを貼る行為って、各世代にとっての自己防衛の手段なんです。レッテルを貼るときって大抵悪口になってしまいませんか?ベテランは働かない、やる気がないとか。厳しい言い方になりますが、本当は「その人を活かせていない」というマネージャーの問題でもあるのに、その責任を放棄してしまっていますよね。
相手を知り、助け合う関係性をつくる
- この「レッテル」は、どのように乗り越えればよいのでしょうか?正直、年上のベテラン社員を年下のマネージャーが活かすというのは、とても難しそうだなと思いました。
2つのステップがあると思います。
最初のステップは、その人の「歴史」を聞くことです。それこそ、この会社に入った動機から、何年目にどんなことをしたかというのを丁寧に聞いていきます。人間は経験を通じて強みが形成されていくので、そのことをちゃんと伝えられるとベテラン社員側も嬉しいし、効力感があると思います。少し時間はかかると思いますが、しっかり聞くというのが大事だと思います。
その時に、年下のマネージャーも自分史の話をすると良いですね。
- まずは相手を知るところからですね。
そこまでやったうえで、ベテラン社員が「まだまだ頑張りたい。会社や仲間に貢献したい。」という気持ちが強く、基本的なマインドが整っている人であれば、「組織の課題」をテーマに一緒に話してベテラン社員が取り組む内容を決めていきます。これが次のステップです。
「この仕事をやってください。」だと割り振られた感があるので、「この組織にはこんな課題があると思うんですが、あなたのこれまでの経験を活かしてこういうことできませんかね?私だとここらへんの分野は苦手なので、補ってもらえると嬉しいです。」というような話ができるといいなと思います。
こういう風に決まっていくとコミットできるし、上司と部下の関係を超えて助け合う関係になれますよね。
- 最初のステップで相手を知ったからこそ、できる関係性ですね。
ただ、これは上手くいったケースで、割合としては半分くらいかなと思います。
これで上手くいかない人は、働く動機がなくなっている方が多いんですよね。例えば、昇格や昇給を動機に頑張ってきた人は、それがなくなって自分をドライブできなかったり。
これは「キャリア感が醸成されていない」という状態と言っています。人生100年時代においてベテラン社員のトータルの人生を考えると残り50年あるので、後半戦がモチベーションのない人生になってしまいます。だからこそ、何に貢献したいのか、どういうことにやりがいを持っていくのかということを突き詰めて話し合う必要があるんですよね。
ただ、その人の人生を充実させることを年下のマネージャーが担うのはやっぱり難しいので、そういうときはそのマネージャーの上司とか、ベテラン社員の先輩とかに任せたほうが良いですね。最近はキャリアカウンセラーがいる会社も増えてきたので、そういう人たちと対話してしっかり考えてもらうということをしてもらうのも良いと思います。
- 僕が年下のマネージャーの立場だったらできるかな...と思いながら聞いていましたが、周囲の助けを借りるということを聞いて少し気持ちが軽くなりました。
ベテラン社員本人のことを考えても、話しやすい人と話したほうが良いですよね。第一線でバリバリやっている課長さんとかはいろいろ抱え過ぎちゃっていますが、どんどん振っていくということが大事なんじゃないかと思います。万能じゃないので。
- 組織側は「ベテラン社員の活躍促進」のトピックに対して提供できるものはありますか?
先程言ったキャリアカウンセリングの機会を提供するのはその一つだと思いますね。
キャリアカウンセラーが国家資格になったので、最近はそれを目指す人が増えています。なので、キャリアカウンセリングの専門部署を持っている会社もありますが、兼務という形で社員のキャリアカウンセリングをやってくれている社員さんもいたりします。そういう方は、自分も過去に苦しんだ経験があったり、キャリアの相談相手になりたいという動機もあるので、そういう方が機能するのが良いと思います。
イキイキ働くベテラン社員が与える影響
- そういう人や部署があると、すごい安心感がありますね。この「ベテラン社員の活躍促進」ですが、ベテラン社員がイキイキ働いていると周囲にとってはどんな嬉しいことがあるのでしょうか?
意外な話ですが、この取り組みをしたあと、各世代のモチベーションやエンゲージメントを測っていくと、30代後半の数字が上がることがよくあるんです。
実は30代後半は鬼門と呼ばれていて、人生において迷う時期なのか、この時期のモチベーションは下がることが多い。数字が上がった背景をヒアリングしていくと、「自分の将来像に希望を持てた」というのがありました。
30代後半の社員からしたら、ベテラン社員はちょっと先の自分なわけです。そういう人たちが面白い仕事も与えられず、組織からも評価されずという姿を見ればモチベーションは下がってしまいますが、ベテラン社員が楽しんでワクワクしている姿を見ると少し安心しますよね。
- ベテラン社員のその姿が、会社全体がイキイキし始めるきっかけになるかもしれないですね。
よく考えれば、ベテラン社員が増えているということは、経験豊かな人材が増えているということです。教育コストもかからなければ、利益率は高い。何の問題もないはずなんです。
ベテランだから元気がないということは必ずしもイコールではないですよね。絶対に言えることは、ベテランだと社歴が長くて経験が多いということです。
そのベテランのパフォーマンスが悪い場合は、適切な知識がついていないのか、意欲が足りないのか、経験が力になっていないのかというくらいなんです。こういう風にシンプルに捉えて、シンプルに策を打てば良いことなんですが、感情がまとわりつくのでなかなか難しいということなのかなと思います。
ベテランって本来は良い言葉なわけですからね。
- まさに「”不良債権”かと思ったら、宝の山でした」ですね。
もちろん、1割2割の人はどんな対策をしてもなかなか難しい方がいらっしゃるので、そういう人に対しては諦めるのを推奨しています。向き合い続けても精神衛生上良くないですし、人事もマネージャーも疲れてしまうので。そういう場合は会社がその人たちを追い出すとか、追い出さないのであれば、マイナスが生まれないようにしてもらえば良いと思います。
書籍出版からの変化
- 『「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』の出版は2016年ということで、既に6年が経ちました。この後から「人生100年時代」という言葉が当たり前になったり、今でいえば新型コロナウイルスの感染拡大があったりと様々に変化が起きています。「ベテラン社員」の文脈でも何か変化はありましたか?
コロナ渦より前のベテラン社員は、なかなか今いる組織から外に出て活躍するという選択肢は一部の人にしかなかったんです。そうだったのが、コロナ渦を経てポートフォリオワーカーのようにいくつかの会社と契約してやっていくとか、専門知識を活かして働くみたいな、新しい働き方をデザインする人が増えました。
この本を出した当初は基本的には組織内でどう活躍するかが主だったのですが、今はその外への展開や、定年先のことまでも含めてどう考えるかというところに意識がいくようになったと思います。考える時間軸が延びたのと、選択肢に広がりがでたということですね。
また、「人生100年時代」と言われる前から「ベテラン社員の活躍促進」を組織の課題として取り組んできた会社と、そうでない会社で差が出た数年でもありました。実際にヒアリングすると意識が全く違うんですよね。一方の会社のベテラン社員からは、今後のことも含め前向きな目標がたくさんでてきているのに、もう一方では全くそうでなかったりします。
逆に言うと、この6年でベテラン社員を上手く活かせている会社がたくさんでてきているということでもありますね。だから「ベテラン社員の活躍促進」は、ベテラン社員本人の問題ではなく組織側のトピックですよ、ということは理解してもらいたいなと思います。
ベテラン社員の活躍促進のために大事なこと
- 最後の質問になりますが、このような変化が様々に起こる中で「ベテラン社員の活躍促進」において、逆に変わらない大事なことはありますか?
ベテラン社員に「イキイキと活躍したいですか?」と聞くと、99%の人は「そうありたい」と回答します。まずはこのことを会社側はちゃんと信じてほしいなと思います。
社員が求めているものをヒアリングすると、「やりがいのある仕事」、「話を聞いてくれる上司」、「共感できる仲間」、「適切な給与」だいたいこの4つなんですよね。
なので、あんまり難しく考えず、この4つのうちのどれが欠けているのかを真剣に考えて、仕組みとかいろいろなものを変えていけばよいのかなと思います。抽象的なテーマではあるんですが、真摯に向き合うことが大事ですね。
こういう問題ってテクニカルに考えてしまいがちなんですよ。人事制度の給与をああしてこうしてとか、いろいろあるんです。ただそういうのをやっていると伝わるものも伝わらなくなってしまうので、もっとシンプルに考えてシンプルに取り組むということをしてほしいなと思っています。
- 本日はありがとうございました。
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