ジェイフィール2023.02.06
企業で働く一人ひとりが社会に対する感度を高めながら、新しい製品やサービスを生み出す、今の仕事の在り方を改善しようと取り組む「社会目線を持ったリーダー」への転換(=リーダーシップのOSの転換)が求められています。
2022年の10月に始まったジェイフィールのセミナー「働く人と社会をつなぐ対話会」の中にこのような問いかけがあります。ジェイフィールのミッションにも「社会」という概念が追加されたように、今「社会」というキーワードは人や組織が無視できない存在となりつつあります。
今回は、「そもそも、”社会とつながる”とは?」、「なぜ社会とつながることが大事なのか」、「社会とつながるために私たちができることは?」など、「社会とつながる」をテーマに、ジェイフィールの山中健司さんにお話を伺いました。
「仕事」と「社会」の分断
- 本日はよろしくお願いします。ジェイフィールでは、新しいミッションにもあるように、「社会とつながる」という言葉をよく聞きます。まずは「社会とつながる」とは?という質問から始めさせてください。
山中さん
なかなか難しい問いですね。笑
簡単に言えば、日々の暮らしとか仕事の中で、そこに付随するような環境の問題であったり、社会の問題に気づいたり意識が向くということが「社会とつながる」ことかなと考えています。
ジェイフィールは「人と組織と社会のつながりを再生し、未来へつなぐ」と謳っているんですが、この「再生する」ということがすごく大事だと思っています。というのも、本来、人と社会はつながっているものだと思うんですね。社会という大きな構造の中で人は生きてるから必ずつながりがあるんだと。
本来はそうなんだけれど、日々忙しく仕事をしていてなかなか余裕が持てなかったりすると、社会で起きている問題や環境の問題も含め、そういった社会に関する課題が見えづらくなってしまっているのではないかと懸念しています。
- たしかに、目の前にある大量の仕事を想像すると「社会のことなんて考えてられない」と思ってしまいますね。
でも面白いことに、仕事から離れて、スーパーに行くときなんかはエコバックをきちんと持っていくんですよね。ペットボトルは買わずに水筒を持つようにしたり。そういう個々の動きはあるんだけど、こと「仕事」となると「社会の問題」と分離して捉える傾向があるんです。
とある企業のワークショップでこういう話題を部長向けに取り扱ったんですが、そこでは「社員にそこまで考えさせる必要あるの?」、「お客さんに喜んでもらっているのだから、自分たちは社会に貢献できている。」さらには、「これって、普段テレビを見ていたらチャンネルを変える話題だよね。」という声まで挙がりました。
「社会問題を取り扱うのはCSR部門だったり、サステナビリティ推進部みたいなところがやることだよね」と言って、自分たちの仕事とはちょっと距離を置いているような印象です。
- どういった背景でこのような分離が起きるのでしょう?
経営層の方々は、短期成果も出していかなきゃいけないという株式市場からのプレッシャーが大きいんだと思います。業績を上げるために社員に対するプレッシャーを強めなければいけないし、そうなると社員も心の余裕がなくなる。そうなると会社全体が、社会課題を考えている時間がないから、関心も高まらず、その結果「仕事」と「社会」がつながらなくなってしまいます。
サステナビリティ推進企業として雑誌などに載ってくる企業でも、実はこのような分断が起きていたりするのが現状です。
企業が「社会とつながる」必要性
- 少し嫌な質問になりますが、「そもそも企業は社会問題を考える必要があるのか?」という点にも触れたいです。
社会の問題とか環境の問題に関して、企業が与えている影響ってすごく大きいと思うんですよね。そもそも企業のビジネスって「外部不経済」という「なにかの犠牲の上で成り立っている」と言ったりしますよね。
たとえばスマホに使われているレアアースは、コンゴの子どもたちの違法労働によって支えられているかもしれないし、私たちが着ている服の綿はもしかしたら、新疆ウイグル自治区の少数民族による強制労働によって作られているのかもしれない。今挙げた例は氷山の一角にすぎないと思うんです。
- 知らないだけで、こういった犠牲はたくさんありそうです。
はい。そう考えると、個人だけじゃなく、企業のあり方も変わっていかなきゃいけないと思うんです。
海外ではそういう雰囲気が日本より浸透しているんですよね。例えばAppleが自社製品の「脱炭素」を掲げています。それだけじゃなく取引企業にまでそれを求めているんです。もちろん求めるだけじゃなくてちゃんと手助けするところまでセットで。IKEAも自分たちの家具のリサイクルに積極的ですよね。自動車業界でも同様にEV化の流れがあります。もちろん、ビジネス的にグリーンな規制をかけて自分たちが得意な土俵をつくるみたいな思惑はあると思いますが、そういう規制を踏まえても、日本でも対応していかないと生き残っていけなくなるのではないでしょうか。
「社会とつながる」きっかけ
- この浸透の差には何があるんでしょう。
ちゃんとしたエビデンスを持っていないので、はっきりとは答えられないんですが、先日イギリスの教授のジョナサン・ゴスリング(JONATHAN GOSLING)さんとお話したときのことはヒントになるかもしれません。
彼の研究に、環境問題に取り組む欧州企業のリーダーは、他のリーダーと何が違うのかを明らかにする、という趣旨のものがあります。結果何が違うのかというと、ひとつは「そういう環境の問題に触れる機会を持っている」と言っているんですよ。
例えばあるお菓子を作っている会社の経営者がお菓子で使用するサトウキビを生産しているインドに行って、そこの様子を見ると、サトウキビを育てるのにものすごい量の水が必要であることがわかった。その影響で、村では水不足で苦しんでいる子供たちがいるという現実を見て、「自分たちは本当にこのビジネスをやっていいのか。」ということを思うようになった。このように環境問題に取り組む欧州のリーダーは、取り組むきっかけとなる原体験があるんですね。
原体験でいうと、先日とある生活用品メーカーで行ったセッションの中で印象深いことがありました。「社会のことについてもっと知ろう」というテーマのセッションで、海洋プラスチック問題に興味を持って、実際に海にゴミを拾いに行った方がいました。そしたら、そこでその企業が30年前に作った製品の容器が捨ててあったのを発見したんです。「我々が作った製品が、長い間ずっと海を漂っていた」という事実を目の当たりにして、「私たちの会社はこれで良いんだろうか」と思うようになったと言っていました。プラスチックは便利なんだけれど、こういった負の側面もあるから循環型の製品を考えていかなくてはいけないのではと。
- まさに、原体験ですね。山中さんのきっかけは何だったんですか?
「SDGs」が提唱され始めたころに一度自分も「SDGs」の項目を確認してみたんです。そのときは、SDGsの8番目にある「働きがいも経済成長も」という項目で、自分が貢献できているなと実感していました。そういう自負はあったんですが、社会課題って言われると、何か知ってるようで知らないなというのが本音ではあって、なんとなくモヤモヤしていたんです。
そこでコロナ禍をきっかけに、少し時間をつくってワークショップやイベントに参加したり、自分と対話する時間をとったりする中で、「働きがいと経済成長だけで良いのか?何か足りないピースがあるのでは?」と思うようになりました。
そんなときに、先程のSDGsの図をウエディングケーキ状にした図に出会って、最後のピースがはまる体験をしました。
「経済」をよくするためには、健全な「社会」がないといけないし、健全な社会であるためには、健全な「環境」がないと成り立たない。今までは「経済」にしか目を向けていなかったけど、その土台となる部分も良くしていかないと、社会は持続できないんだなと腑に落ちたんです。
- ウェディングケーキ状の図は「そもそも企業は社会問題を考える必要があるのか?」という問いへのひとつの答えでもありますね。
はい。それをきっかけに、最後の「社会」というピースがはまって「働く人たちが人や”社会”とつながり、自分らしさを発揮して、充実した人生が送れる。そんな人、組織、社会をつくりたい」というのが私の人生のミッションになりました。
とはいえ、私は幸運にもジェイフィールに来てそういった機会に恵まれたので、前職ではそういったことを考える余裕もありませんでした。やっぱり一般的な企業では、人と企業と社会の分断が起きてしまっていると思います。
「仕事」と「社会」の分断を乗り越えるために
- 簡単ではないですが、その分断はどのようにして乗り越えていけばよいのでしょうか。
具体的なHOWはないのですが、こういったサイクルをぐるぐると回すことが大事なのではと考えています。
まずは世の中にある課題とか、その背景とかを「知ってみる」こと。その課題は、自分たちの仕事の周辺だとこんなところと関係しているかなとか、そういうことを知ることが第一歩だと思います。そうやって、その問題に自分を重ねてみると、こういうことができるんじゃないか?と可能性に気づいたりするんです。そうしたら、本当に小さな一歩で良いので、踏み出してみる。それこそ「こういう問題があるんだって」と家族や友人に話すのも一歩だと思います。それで共感してくれる人がいれば、効力感を得てさらに知ろうとする。
こういったサイクルを回していけば、一人ひとりの意識が変わって周りに連鎖して、社会を変えるきっかけにもなるのかなと。もちろん長い長い道のりではあると思うんですが。
実は企業で社会課題を意識しながら取り組んでいる人やNPOの活動をしている方に聞くと、「わたしもそうだった!」とこのサイクルにすごい共感してくれるんですよ。
- 山中さんがジェイフィールで始めた「働く人と社会をつなぐ対話会」は、このサイクルが回り始めるきっかけにもなりますね。
そうですね。この対話会で大事にしていることが2つあります。1つは、まず社会課題で何が起こっているのか、その「リアリティ」を知ってもらうこと。もう1つは、その課題に取り組むリーダーに、思いや原体験などの内側を語ってもらうこと。参加者はこれらに触れて共感できる部分があれば、一歩踏み出すきっかけになるかもしれないと思っています。
第1回目は「子どもが孤立しない社会を一緒につくる」というテーマでやりました。ある参加者が「10人の子供のうち、3人は孤独を感じている」という言葉をきっかけに、自分の家の前を歩いてる小学生の中に孤独を感じてる子がいるかもしれないと「おはよう」って挨拶をするようになったと言っていました。
https://www.j-feel.jp/seminar/svvm-pkfab
- まさに、さきほどのサイクルがまわって一歩踏み出した瞬間ですね。
「ハチドリのひとしずく」
まだ誰にも気づかれていないと思うんですが、実は「働く人と社会をつなぐ対話会」の資料の右下に「ハチドリ」のマークを入れているんです。「ハチドリのひとしずく」という寓話からとっていて、森で火事が起きたときに、ハチドリは一滴ずつ水を運ぶのに対して、森から逃げる動物たちは「そんなことして何になるのだ」と笑うんですよ。それに対してハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と答えるというシーンがあります。
社会課題の話をすると、「いやいや、一人増えたところでそんな簡単に解決しないよ。」と言われてしまいがちなんですが、どれだけ長い道のりでもちょっとずつ進んでいかないと、何も解決しないなと思うんですよね。
- 「私は、私にできることをしているだけ」とても大切な姿勢だと思います。対話会の参加者が例えば同僚にその話をして、その同僚が次に参加してくれて...。そういう感じで徐々に拡がっていけば、組織、社会となにかが少し変わり始めるきっかけになるかもしれません。
いまは土壌作りといったイメージですが、そういうことを続けたいなと思います。
そうして一人ひとりの感度が高まれば、「自分の会社の中で社会課題に対しての感度を高めたい」という動きが生まれるかもしれませんし、その先に「仕事」と「社会」がつながることがあって、そうなれば「社会の課題解決を通して企業価値を向上させる」といった取り組みもできるんじゃないかなと思っています。こういう動きがでてくるのが社会課題解決にとっては大事なんだと思います。
自分の心が動くことに関心を持つ
- 先程「前職ではそういったことを考える余裕はなかった」とおっしゃっていましたが、実際こういう方が多いのが現状だと思います。「知る」という余裕さえない。そういう方が社会とつながるには、まずどうすれば良いのでしょうか?
「自分の心が動くことにちょっとだけ関心を持ってみる」ということなんじゃないかなと思います。生きていてそういう社会課題系の話題って絶対あるので、それに対して自分の心がざわついたり、心が痛んだりしたら、それを大切にしてください。
わたしはサルトルの実存主義という考え方が結構好きで、すごい噛み砕いた説明になりますが「人間は生まれながらにして本質を持ってるわけではなく、世の中に意味を見出していって自分を見つける」。つまり、世の中で起きていることはただ起きているだけであって、そこに意味を見いだしてるのは人間なんだと。
同じ現象を見ても、育った環境が違えば人によって捉え方が違うし、ある問題を見たときに胸が痛んだのなら、それはそこに意味を見出している自分がいる。その状態を信じて、一歩踏み出してみるというのが大事なのではと思います。
そこにあまりロジックはないんですよね。社会課題を解決しようと取り組んでいる人たちは、ロジックを超えて、自分の心動かされたものに対して、自分が何か貢献したいんだと。そういう自分軸で発信する人たちが多いんです。この自分軸というのが、さきほどの「その問題を見たときに、胸が痛くなったり、なにかできないかな?と考えたりするかどうか」ということだと思うので、まずはこれに関心を持ってみると良いのかなと思います。
- 本日は、ありがとうございました。