佐藤 将2019.05.21
20.僕らまだ次世代だけど(三)
ダウンタウンからハイウエイで1時間。
荒れ果てた郊外の町に入る。
道には人がなく野犬だけ。
10分くらい寂れた住宅街を抜けると
丘の上に鉄条網で囲われた建物がある。
(収容所なのか...?)
突然車が止まると、ドライバーが指差す。
そしてI-Phone上に英語変換した文字を示す。
「ここで3時間後にピックアップする」
(えっ!!ここ??)
「OK」
そう言って、あたふた降りると、
すぐに車は立ち去る。
路上に残される三人。
アンデスから吹きつける風が冷たい。
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チリで開催された「ワールド・ラウンドテーブル」の一環で企業訪問。
同じチームにアサインされたのは三人。
フランスから参加のソフィーは、世界各地の街づくりコミュニティづくりを、「デジタルxコレクティブ・インテリジェンス」の視点で推進する大学教授。
南アフリカから参加のカーラは、若くして幹部に抜擢、南ア有数のMBAにも通いながら二人の子育てもする「ザ・プロフェッショナル・ミレニアル」。
訪問先に向かう道中、三人で話をしていると、地球がいかに小さくなったかを感じる。
この世界は確実に"グローバル"という実感。
しかし今回のテーマは、"ワールドリー"(Worldly)。
主催者のジョナサン(ゴズリング教授)やヘンリー(ミンツバーグ教授)が、グローバルの対極に置く概念だ。
『ワールドリーってなんだ?』
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鉄条網の門を抜けると、突然声がした。
「オゥラ!」(※スペイン語でこんにちは)
驚いて振り向くと、門番だ。
「オゥラ!」
慌てて返事をすると、笑顔を返してくれた。
(やはり、ここらしい...)
敷地の中に、白亜の壁で囲まれた建物があった。
その中に通じる階段を登る。
階段の上には、現代風のオシャレな受付があった。
南米らしい鮮やかな黄色の壁。
にこやかな受付係の方。
雰囲気が一変する。
1分も経たずに、階段の上から足音がする。
「ハーイ」
他の2人と安堵の表情で見合わせる。
「誰が、誰に付くか決めている?」
「いや...」
「じゃあ、この順番でいいわね」
「オーケー」
対面に来た女性に握手をする。
「ハイ。私はイザベルよ」
「ハーイ、ナイスツーミーツユー」
見るとまだ30代前後のミレニアルだ。
挨拶もそこそこに、足早に階段を登る彼女たちを追う。
二階の廊下の先、案内された先では、すでに会議が開かれていた。
邪魔をしないように、大きなテーブルの奥に座る。
会議には、先ほど迎えに来てくれた三名の他に三名。
六名で大きなテーブルを囲んでいる。
そこに突然迷い込んだ外国人三名。
会議はすべてスペイン語。
何を話しているかまったくわからない。
ただ、猛烈なスピードで進んでいるのはわかる。
誰もが躊躇わない。
自分の意見を自由に言い、質問をしあっている。
(日本の会議の五倍速だな...)。
一見カオスだが、次々にアジェンダ(議題)が処理されていくようだ。
イザベル、この中では中間管理職なのだろう、手元のアジェンダに色ペンで印をつけていく。
黙って見ていると、それぞれのキャラクター(人格)やロール(役割)は違う。
発言量も貢献の仕方も違う。
けれど、一つ明らかに確実なのは、ここにいる全員がパッション(Passion)を持って仕事していることだ。
室内を観察する。
卓上には、カラフルなコーヒーカップにバタービスケット。
窓の外に目をやると、
中庭のグラウンドで子供たちが駆け回っている。
(あーそうか。ここは外から見えない構造になっているのか)
子ども達の目はキラキラ。
エネルギーに満ちている。
中には、教室に入りたくないと駄々をこねて先生を困らしている子がいる。
一見して、ここが素晴らしい学校であることがわかる。
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ここは、チリの貧困地域で、子供たちに無償教育を提供するNPO「Fundacion Astoreca」(※HP参照)。
そのNPOメンバーであり教師でもあるエグゼクティブに対し、マネジメント・シャドウイングを行う(一対一で幹部を観察。マネジメント行動やマインドセットを学びながら自己投影、自分自身のリフレクションを行うワーク)。
イザベルの動きを細かく観察していると、
いろいろなことが見えてきた...
彼女の立場
会議での立ち位置
彼女の性格的なこと
彼女の会議への貢献の仕方
彼女の意図
そして、彼女の感情。
言葉がわからないのに、
相手の一部のように感じ始める。
(これって、どこかで...)
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今回の「ワールド・ラウンドテーブル」でプログラムマネジャーを行ったのは、ミリアム。リーダーシップの権威者、ジョナサン・ゴズリング教授のお嬢さんであり、UKのミレニアル世代。
プログラムの中で、彼女自身が今年9月に初めて主催する「ユース(次世代)リーダー・プログラム」の事を知った。
ケニアで、現地の社会課題に取り組む主にU32のNPOリーダー&メンバー達と、UKやアイルランド、世界各国の次世代を合わせて、この「ワールド・ラウンドテーブル」の次世代(ユース)向け版を行うという。
「何がこのプログラムと違うの」と聞くと、
「一人ひとりのストーリーよ」
「私たちは、プロフィット(収益)よりも、パーパス(社会的目的)を大事にする子が多いの」
「だから、一人ひとりが胸の鼓動(Beat of own drum)を感じる道を探すの」
「そのために、プロのストーリーテラーも呼んで、焚き火もするの」
「自己探求だけど」、
「私たち世代のアイデンティティは、地球的な課題(Planetary Issues)や、他者といった自分の外にあるもの(Objects)との相互関係性(Inter-dependence)の中で見えてくると思うの」。
「だから、このプログラムは、アフリカ、ケニアのように、私たち(先進国の人間)が知らない多くの社会課題があって、実際に現地のNPOで活動している人達と一緒に行うことが大事なの」。
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10年以上も昔の事。
チリとは反対側にある東京での出来事。
久しぶりに入った美容室。
店内には陽光がキラキラと降り注ぐ。
七年近くを海外で過ごした後だっただけに、やや緊張。
それを見て、美容専門学校を出たばかりといった感じの、若い美容師さんが、気を使って話しかけてくれた。
「ご近所にお住まいなのですか?」
「はい、引っ越してきたばかりです」
「東京は好きですか?」
「えっ、嫌いではないですけど...」
「私、仙台出身なんです」
「あーあの、牛タンで有名な!(ベタな反応!!)」
「あれは地元の人は、あまり食べないです」
「普通に近くの海で取れる物が美味しくて」
「ふーん、そうなんですね」
その後、仙台の話をたくさんしてくれた。
仙台名物や観光名所、エトセトラ。
そのうち、彼女のご家族や幼少期の話(ストーリー)になる。
「学生時代は、何をされていたのですか?」
「普通にお友達とお茶したり...特段何って事はなかったですけど...」
「あっ、そういえば、よく川を眺めていました」
「えっ?」
「黙って。ただ川を眺めて座っていました」
「えっ??」
「落ち込んだ友達と一緒に...」
「一言も話さず、黙って」。
「黙って?」
「はい」
「何も話さずに?」
「はい」
(......)
次世代ミレニアルからカルチャーショックを受けた初めての経験だった。
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会議を終えたイザベルが、一階の自分のオフィス(個室)に戻る。
次々と、彼女の部下や同僚達(恐らく小学校の先生やNPOメンバー)が、立ち寄って何かを相談してくる。
その多くがミレニアル世代だ。
お互いフラットに接し、凄いスピードで案件を片付けていく。
とても忙しそうだけど、楽しそうだ。
ここにはリズムがある。
ハートビートがある。
それぞれが、それぞれのドラムを叩きながら、ミュージックを奏でている。
もしかしたら、"ワールドリー"の世界観は、この世界の次世代たちが実現するのかな...
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でも...『"ワールドリー"ってなんだ?』
(続く)