ジェイフィール2023.01.10
会社DATA
創業 :1940年
代表者 :代表取締役社長兼CEO 小瀧 龍太郎
従業員数 :連結:5,656名(2022年3月31日現在)
売上高 :1,248億円(2022年3月期)
事業内容 :自動認識ソリューションの販売を行うグループ内傘下子会社の経営戦略策定・経営管理
URL :https://www.sato.co.jp/
インタビューイー
サトーホールディングス株式会社
国内人財部 サトーキャンパス推進グループ
竹中 アキ氏
国家資格キャリアコンサルタント・2030SDGs認定ファシリテーター
DiSC認定ファシリテーター・全米NLP協会認定NLPプラクティショナー
札幌支店で営業職として入社。営業時代にコーチングを学び、キャリアコンサルタントの資格を取得し、自ら人財部門へ異動。
全体概要
近所の食料品店やスーパーでピストルのような機材を持って、次々と商品に値札を貼っていく店員さんを目にした記憶がある方も多いのではないでしょうか。
その機材の名は「ハンドラベラー」。サトーホールディングスの創業者である佐藤陽氏が1962年に開発したものです。その後、小売業の発展と共に大型スーパーマーケットが台頭し、全商品に値段情報を付ける必要が生まれた時代、この「ハンドラベラー」の製造と販売を軸に、サトー機工株式会社(現サトーホールディングス)は一躍事業を拡大してきました。
その後、バーコードが普及すると、世界初となる熱転写方式バーコードプリンタを開発。小売業だけではなく様々な業界でバーコードを活用したモノの情報化が進んでいきます。
現在、サトーホールディングス(株)では社是である「あくなき創造」の精神の下、”あらゆるものを情報化して、社会のうごきを最適化する。”をブランドステートメントに掲げ、現場の情報化のビジネスを進めています。様々な小売店で活用されているRFID(Radio Frequency Identification)タグによる、非接触で情報を読み書きする先進的な技術で、在庫管理や無人レジなど店舗業務の効率化を実現させています。
世界90以上の国・地域でビジネスを展開するグローバルカンパニーであり、常に先端技術を用いたソリューションを提供し続ける同社であるが故、戦略的な人財育成にも注力しています。 2021年より「サトーキャンパス」を立上げ「自ら考え行動し(自立)、変化を起こせる(自律)人財(ジリツ人財)」を育成しています。
『「個」が輝ける組織を実現したい』そんな熱き想いを持ちながら「サトーキャンパス」に取り組む竹中さんに「サトーキャンパス」のミッションや、「個」が輝く為に取り入れた「キャリアデザイン研修」事例などを伺いました。
プロジェクト概要
課題
サトーグループの事業ドメインは「タギング」です。前述したように、最初は「ハンドラベラー」によるモノの値付けから、バーコードによるモノの管理に進化し、現在ではIoTなどを機能させ、現場のモノや人の情報の分析を通じて、オペレーションの効率化や経営課題の発見、解決に役立てています。私たちの生活でも身近なところでサトーの技術が活かされ、購買場面での時短や、最適なモノの購入に役立っています。
このようなお客様が必要とする情報を適切に取得できる自動認識技術、被写体の材質や形状に合ったラベルやタグの選定、集めた情報を上位システムにつなげるタイミングや方法などは一朝一夕に出来るものではなく、サトーグループが創業以来、お客様の声を聞きながら試行錯誤を繰り返し、経験と実績を積み重ねたサトーならではの強みで他社が真似できない領域です。
現在、「タギング」の主な手法はラベルです。ラベル事業が売上の約6割を占めています。しかし、代替技術が登場すればいずれラベルが要らなくなる世の中が来るかもしれません。次のタギングを担うイノベーションが求められているのに、そもそもその必要性に気付いていない社員が一定数存在することに竹中さんは危機感を持っているようです。
健全な危機感を持ち、ありたい姿を描くことの大切さ。これはキャリア形成にも通じます。人生100年時代と言われ、今の現役世代は80歳近くまで働かなくてはならないと言われていますが、自分のキャリア(ありたい姿)を描けていなければ、これからの会社人生、もっと言えば退職後の人生も含めて、イキイキと「目的」 「目標」を持って働くことが難しくなってしまいます。
変化の激しい時代。職業は長期化し、技術は短命化していく中で、会社という枠の範囲でしか考えられなければイノベーティブなことは生まれなくなり、やがて組織も会社も衰退していってしまいます。会社という枠を外して、自分の人生をどう生きるかに目向けたときに見えてくる自らの思いがイノベーションを生むのだ、という考えなのです。
歴史があり確固たる技術がある老舗企業だからこその課題感、危機感があったようです。
仮説と解決策
竹中さんが所属する「サトーキャンパス」は、2021年に人財育成と企業文化浸透を促進するための機能として立ち上がりました。「サトーキャンパス」は全従業員が所属し、ミッションは以下3点です。
①求める人財(ジリツ人財)の育成
②企業理念への共感と事業価値への理解の浸透
③能力発揮と挑戦する機会の提供
又、以下の「キャンパスマップ」に従い、図左側の実務的な「能力開発」と、図右側の意識転換と行動のきっかけにつながる「マインド」「ネットワーキング」に分かれ、それぞれを組み合わせながら個々のキャリア目標達成の支援をしています。
竹中さんは主に右側の「マインド」「ネットワーキング」部分を担当する中で、社員一人一人が “自分が何のために働くのか” ”今後、どのようになりたいのか” を自ら考える機会を得て欲しいと、節目を迎えた社員に「キャリアデザインセミナー研修」を実施します。
元々、30年目の社員には「いっしんセミナー」という名前で今後のキャリア、人生プランを考える研修を行っていたようですが、もっと早くから自分のキャリアプランを持った方がいいとの考えの下、33歳、43歳研修も取り入れたそうです。
特に、今回ジェイフィールが担当した43歳研修は、ちょうど組織の中核を担う重要な年代で、目の前の課題、仕事だけに没頭してしまいがちです。そんな社員達が少しだけ日々の繁忙から離れて、自身のキャリア(ありたい姿)を描くことで、今後の仕事への取り組み方も変わっていきます。
働き方が大きく変わったこの時代に、自分自身で会社から与えられるだけではない、新しい「目標」を生み出し、キャリアの目的(パーパス)を育てることが、「個」が輝き、組織も活性化する道なのです。
成功のポイント
キャリアデザイン研修を受けた社員達は一様に「今までこんな研修を会社で受けたことがない!」と、言うそうです。それはそうです。研修では自分が働く本当の「目的」を探り、そのための「目標」をたくさん設定するからです。「自分らしさとは何か」「自分にとっての幸せとは何か」を真剣に考えると、もしかすると、今の職場、今の仕事ではない可能性も出てきてしまいます。
そのためか、この研修制度を取り入れる前は上長からは「離職者が増えるだけなのでは?」と反対意見も多かったといいます。それでも竹中さんは植物の成長を例えに、「つくしと杉で成長のスピードや度合いが違うように、人間もそのスピードや度合いが違うので、一人一人が自分自身を見つめるこの研修が必要なのだ」「個々人の成長こそが組織の活性化につながるのだ」と上長と話し合いを続け、採用が決まったそうです。
受講者からは「自分の人生を振り返る時間をわざわざ会社でやってくれてありがたい」や、「同年代で悩みの共有が出来ただけでなく、社内に同年代の仲間が増えて嬉しい」などポジティブな意見が出ているそうです。又、この研修自体は1日だけなのですが、その後3か月間は同じメンバーで月に1回集まり、ディスカッションすることを課題としたお陰で、「振り返りが習慣化し、日々ノートを付けている」や「人と振り返ることで自分一人では出来ない発想が生まれる」など、普段の業務にもその成果を活かせているようです。
竹中さんに今後の展望を聞いてみると、「サトーキャンパス」の輪をサトーHD内部だけでなく、他企業や地域など外部の人も自由に行き来出来るような「場」にしたいと言います。「人は人(出会い)でしか変わらないので、出会う『場』を作ることで、変わるきっかけを提供したい。」そして「『個』がイキイキと働き輝き続ける社会にしていきたい」と。
「あくなき創造」の精神で、小売り、流通の現場に変化を起こしてきたサトーだからこそ、新しい時代の「人の変化」をつくり、いくつになっても人生の「目的」(パーパス)を持ち続け、イキイキと輝きながら社会の中核を担っていける人財を育てる企業であり続けられるのだと思います。
担当コンサルタント、北村より
キャリアデザインに関する研修は多くの企業で行われていますが、会社人生ではなく自分の人生そのものを考えることが、組織の活性化につながるという発想が今回の研修のポイントです。
「自分の人生をどう生きたいかが見えてきたら、この組織にいる意味に違和感を感じて離職する」
という見方もありますが、
「自分の人生をどう生きたいかが見えてきたら、この組織にいる意味を強く感じ、エンゲージメントが高まる」
という見方もあります。
本来は、後者のように感じられる組織にしていくことがポイントであって、前者の見方を懸念して組織を変えることを先延ばしにしていては、中長期的にはかえって離職率を高めかねません。
そして、後者のような人たちが集まれば、組織のビジョンも広がるうえに、自分がやりたいことを持った集団なので、主体性も高まり活性化するのです。
それでは、自分の人生をどう生きたいかをどのように見出すのか。
この研修では、自己探求もしていきますが、それに加えていろんな人に会うことも求められます。
それは、自分が想像できる範囲で考えるのではなく、自己既定している思考の枠を外すことが大切だからです。
そうやって、自分の枠を飛び出して自分の人生を考えることは、自分の夢を広げることにつながるのです。
そして、各自の夢を語り合い、その夢を実現する手段としての組織に落とし込んでいくことで、組織のビジョンが想像を超えて広がっていくことにつながるのです。
今回のインタビューで、竹中さんはものすごいエネルギーで語ってくれました。そのエネルギーの源は、自分の人生をどう生きたいかが見えていて、それを実現するための研修をみんなに提供するんだ、という思いでした。前述したことは、まさに竹中さんが先頭を切って体現され、それによって組織が活性化しています。
キャリアデザイン研修は、単に一人ひとりが自分のキャリアを考えるだけでなく、組織の活性化につなげていくツールでもあるのです。
Related Book
合わせておすすめしたい書籍