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「人と組織の生き方を問い直そう」高橋克徳 連載コラム6
第6回 リーダーシップを問い直す

高橋 克徳2023.11.23

リーダーシップって何?


マネジメント研修の中で、リーダーシップを短い演劇(ショートスキット)にしてみてくださいというワークをよくやります。あなたなら、どんなシーンを描きますか?

多くのマネジャーが描くのは、リーダーがみんなの前に立ち、語り掛け、一人ひとりに指示を出し、こっちに行くぞと方向を示したら、自分が先頭を走り、他のメンバーがついてくる。こんなシーンです。

リーダーはみんなに方向を示し、みんなを導く存在である。だからこそ、正しい方向を示し、自分が先頭にたってけん引しなければならない。それがリーダーという存在だと教わってきたという人が多いのではないかと思います。

でも、VUCAの時代、変動が激しい時代の中で、これが正しいという方向性が見えなくなってきている。多様性が広がる中で、先頭にたってけん引しようと思っても、振り向くとついてきてくれていない人がいる。こんな変化に直面して、どう向き合ったいいか、自分がどんな存在であったらいいのか見えなくなってしまった。そんなリーダー、マネジャーたちも多くなっています。

これまで当たり前のように考えてきた、自ら方向を示し、人をけん引するリーダー像がこれからも目指す姿だと思ってよいのでしょうか。


あなたはリーダーになりたいですか?


こうした状況の中で、部下から上司、リーダーはどう見えているのでしょうか。
今の上司やリーダーを見て、自分もそうなりたいと思っているのでしょうか。

実際に、いろいろな調査機関が「管理職になりたいか」「出世したいか」というアンケートを実施していますが、ほぼ回答は共通しています。
管理職になりたいという人は、20代、30代の男性が3割。20代、30代の女性は2割前後となっています。年代が上がるとさらに減少します。(マンパワーグループ調べ、2020)
出世意欲という調査でも、アジア諸国では7割、8割の人たちが管理職になりたいと考えているのに対し、日本では2割しか回答しておらず14か国中最下位になっています。(パーソル研究所調べ、2019)

その理由は何なのか。これも同じマンパワーグループの調査では、「責任が重い仕事をしたくない」「報酬面でのメリットが少ない」「業務負荷が高い」といった理由を挙げる人が、4割から5割と多くなっています。

今の管理職の働き方を見て、負荷が高すぎる。何かあったら自分だけは時間に関係なく対応しなければならない。休み関係なく働くことも当たり前。しかもそこには、大きな責任も伴う。こんなに自分一人で抱えこんでしまった良いのか、自分の責任で本当に決めてよいのか。そこまで負担と責任が大きいのに、それに見合う報酬、見返りが得られるのか。しかも年齢が来ると自動的に役職定年になる。そんな役割を自分から担いたいと思えない。こんな本音が見えてきます。

あらためて、今の管理職やリーダー像は、若手や女性たちが本当に目指したい、やってみたいと思う姿になっているのでしょうか。

若手も女性も目指したくなるリーダーとは?


最初の設問に戻りますが、リーダーシップを短い演劇(ショートスキット)にしてくださいと、20代、30代の研修で実施すると、どのようなシーンを描くと思いますか。

典型的なシーンは、こんな感じです。
メンバーがみんなバラバラな方向をむいて、パソコンに向かって仕事をしている。リーダーはそこで、一人ひとりに声をかけ始める。全員と話し終わったら、みんなに声をかけて輪になって集まっている。そこでみんなと一緒に話し合っている。そこで決めたことができたら、こっちに行こうと指をさして、リーダーから動き始める。
でもそのとき、リーダーは背中を見せて、先頭を走るというよりも、みんなの方をみながら、手招きをして、こちらの方に行こうと導いている。
でも芸の細かなところは、そこでリーダーが転んだりする。するとメンバーが手をすぐに手を差しだし、その間は別のメンバーがリーダーの役割をしていく。

いかがですか。なぜ、若手はこんなシーンを描くと思いますか。
彼らに理由を聞くと、まず今は一人ひとり別々の仕事をしているし、いろんな方向を向いている人ばかり。だから、リーダーがまずは一人ひとりのことを理解し、そこに信頼関係をつくることから始める必要があるのではないか。
でも実際に物事を決めるときには、みんなで話し合う、知恵を出す、一緒に踏み出すことが必要だと思う。だからそんな話し合いの場が大事。
そこで最後はリーダーが決めるけれども、黙ってついてこいではなく、やっぱりそこもみんながイキイキついてくるかを見ながら、一緒に進んでいくべきではないか。
でもリーダーは完璧ではないので、リーダーが疲れたとき、苦しんだ時は他のメンバーはリーダーシップを発揮すればよい。みんなでカバーし合えばよい。

こんな思想が土台にあるそうです。
何がこうした発想の違いを生むのでしょうか。

それは、上司やリーダーという人たちも、同じ人間であり、悩む人であり、弱い部分も持った人であり、でもみんなを良い方向にもっていきたいと一番考えている人という前提があるからだと思います。
上司やリーダーだから自分で決める、自分が先頭に立つという強さの鎧を着ることよりも、上司も同じ人間だからこそみんなの気持ちもわかるし、一緒に頑張ろうと前に進んでくれる。そんな無理のない、等身大のリーダー像を求めているのではないでしょうか。


リアル・リーダーズになる


実は、リーダーシップ論でも大きな転換が起きています。
リーダーシップ論を見ると、いろいろな言葉が出てきます。業務処理型リーダーシップ、カリスマ型リーダーシップ、サーバントリーダーシップ・・・。
これらはすべて、部下やメンバーにどう働きかけるか、その働きかけのスタイルを提示したものです。自分から相手にどう影響を与える存在になるかという思想が土台にあります。

でも、多様性の時代、一人ひとりとどう向き合うかが、一律では難しくなってきました。むしろ、どんな相手であろうと、そこに良い関係性が生まれることが大事なのではないか。そうしたときに、相手にどう働きかけかけるかというよりも、リーダー自身がどうあるべきかが重要ではないか。そのリーダー自身のあり方が周囲にも良い影響を与え、そこに信頼という土台を生む。そんなリーダーとしてのあり方、リーダーシップOSを再構築しよう。そんな動きが強くなってきているのです。

リーダーこそ、ありのまま、自然体であることが大事。オーセンティックであることが重要。一人ひとりの良さ、違いを、フィルターをかけることなく、見出すことができ、自然な振る舞いの中にあるその人らしさを見つけられる人。そして一人ひとりが自然に振舞えるような関係づくり、場づくりができる人。さらに何かあったら、それを自分事のように受け止め、一緒に考えてくれる人。でもそこで何かを決めるときは、その人の大切にしていることが周囲にもしっかり伝わり、人としてのあり方がしっかりしているので、強い信頼を得て、踏み出すことができる人。

そんな人としてのあり方を、リーダーとして土台に持っているか。それを自ら問い直していくこと、それをみんなで身に付けていくことが大切なのではないか。

こんな考え方をもとに、リアル・リーダーズというプログラムをいろいろなリーダー層、マネジャー層に実施しています。そこで分かったことがあります。
自分らしくあることは、メンバーだけでなく、むしろリーダーこそ必要なのかなと。でもそれが何かを追求する、それをみんなに知ってもらい、いいねと言ってもらえる。その関係性が土台にあることがもっと大切なのではないでしょうか。

リーダーとしてのあり方、立ち位置を変えると、ほっとした、楽になったという声がたくさん出てきます。鎧を脱いで、自然な自分であることが、逆にみんなも楽にし、お互いのためにという気持ちを持てる人たちを増やしていく。

あらためて、これからの若手、女性たちも目指したいと思えるリーダー、リーダーシップは何か、一緒に追求してみてもらえませんか。



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