高橋 克徳2023.12.07
あなたは自分のキャリアをどう考えていますか
あなたにはキャリア・プランがありますか。
自分が将来どうなりたいか、どのような仕事をしていきたいか、夢やビジョンを持っていますか。
こう聞かれて、悩ましいと思っている人が多いのではないかと思います。
役職者になればその先が保証されるわけではない。しかも、高い成果が出せなければ、誰もが役職者になれる時代でもない。しかも、今の役職者を見て、あそこまで負担と責任を負う働き方をしたいとも思えない。そう考える若い世代も増えてきています。
さらに、AIやデジタル技術の進化で、仕事の内容が大きく変わり、そのために必要な知識やスキルも、まったく自分の専門性とは異なるものを身に付けなければならなくなるかもしれない。もしかすると、自分が今担当している仕事が、将来はなくなる仕事になるかもしれない。
まさにVUCAの時代。先が見えない。目指す姿が見えない、そこに向かっていく道、パスも見えない。その中で、未来を考えようと言われても、何をどう考えたらよいのかと悩んでしまう。今まさに、そんな時代を迎えているのです。
そんな中で、キャリア開発に関する企業の動きも分かれてきているように思います。
見えない時代だからこそ、自らが切り拓く力が必要になる。各々が広い目線でキャリアを切り拓くことが、会社の未来を切り拓くことになる。そう考えて、より大きな観点、それこそ人生のキャリアという観点から、その人の生き方を一緒に模索しようとする会社もあれば、キャリアを考えるのは個人。個々人が自分で自分の将来は考えるべきと、まったくそこには踏み込まない会社もある。どこまで会社が踏み込むべきなのか。難しくなってきている時代でもあります。
どうなるかわからないなら、未来と向き合わなくても良い?
キャリアというのは、もともと馬車が通った後にできる轍(わだち)を意味しています。自分が歩いてきた後にできる自分の経歴のことです。ですから、定期的に自分を振り返り、経験したこと、積み上げてきたことを意味づけしていく。その中で、自分に自信を持てるようになる。これが本来、キャリアとの向き合いにとって、大切なことです。
過去との向き合いの中から、自分が何を大切にしてきたかが見えてきます。自分が幸せだと感じる瞬間、イキイキとしている瞬間の中に、自分を前向きに動かしていく原動力がある。逆に自分を落ち込ませてしまった、いら立たせてしまった出来事の中に、自分がこれだけは避けたいと思う自分の心のブレーキが隠れているかもしれない。
自分を前に動かしてくれるものを追求し、自分を止めてしまうものからできるだけ距離を置いてみる。その中で、自分らしく生きるために、何が一番大切なことなのかを知る。
これがキャリアを考える最初の出発点です。
ただ、過去だけ振り返っても見えてこないこともあります。それは自分が触れていない世界の中にある、本当の自分が求めていること。自分が今は知らないけれども、もしかしたら自分を前に動かしてくれる大きな存在。それに気づく、見つけるための旅をしなければならないのかもしれません。VUCAの時代、多様性の時代の中で、今までの当たり前が問い直され、いろんな可能性が広がっていきます。過去の延長線上に未来があるわけではない人も出てきます。だからこそ、リンダ・グラットンが「ワークシフト」という本の中で語っているように、内なる旅だけでなく、外への旅が必要になるのです。
自分の可能性が過去にだけあるのではない。自分の知らない世界の中に、自分の可能性を見出す努力が必要になってきているのだと思います。
ビジネスキャリアからライフキャリアへ
外への旅というけれども、具体的にどうすれば自分の未来の可能性を見出すことができるのでしょうか。まずは3つの視点で考えてみてください。
一つ目は、自分のキャリアをビジネスの世界だけに限らず、ライフキャリアという視点でとらえ直しをしてみることです。自分の人生の幸せを考えてみる。どこで誰とどんな暮らしをしたいのか、どんな日常を送りたいのか。その中でどんな喜びを実感していきたいのか。仕事はその喜びとどうつながっていくのか。こんなことをイメージすることから始まります。
今、働いている多くの人たちは、働いている時間、そこ中で目にする風景が浮かんでくるのではないでしょうか。そこに自分のやりがい、生きがいが見いだせれば、それは幸せな時間なのだと思います。でも、本当は自分の時間、家族の時間、その他の親しい人、地域の人たちとつながる時間も、自分にとって大きな幸せ時間になるはず。でも仕事中心、会社中心の暮らしの中で、それがイメージできない。そういう人も多くいるのではないでしょうか。
コロナ禍で、わたしたちは仕事と暮らしを分けて考えることができなくなりました。日々の暮らしの中に、仕事を位置づけなおす人も出てきています。自分がどういう暮らしをしたいか、だからこそどこで、どんな風に仕事をしたいか。ライフ起点で仕事を見直すことも必要なのではないでしょうか。
二つ目は、そうしたライフという起点で考える上で、自分の目線を広げることが必要ではないかというものです。今の暮らしは本当に自分の心が望む、心が喜ぶ暮らしになっているのか。もっと異なる暮らしがあるのではないか。自分の知らない世界、知らない生き方、知らない社会が、ここにはまだまだあるのではないか。それを知る、体感することを意図的にやってみる。都会にはない地域の暮らしに触れてみる。ビジネスの世界だけではない社会のための活動に参加してみる。そうした中で、自分の心と重なるものを見つける。こうした体験を通じて、自分が見ている世界を広げる、自分をビジネスという枠組みから解放してみる。
最後に、そうやって一旦、自分の視座を高め、視野を広げて見たら、そこから見えてくる自分の生きがい、人生の目的を探究してみる。Héctor García とFrancesc Miralles の「IKIGAI:The Japanese Secret to a Long and Happy Life」という本で、日本語には「生きがい」という言葉があり、それは「人生の意味、毎日起きる意味を実感していること」と定義しています。それは、「好きなこと」「得意なこと」「求められていること」「報酬がもらえること」の4つの重なりの中に見出せると言っています。
日本人がみなそうやって自分の生きがいを見出そうとしているのかと問われると、正直、悩ましいと思う人も多いと思います。でも、本当は一人ひとりの中に小さな好きがあり、小さな得意がある。そして外への旅に出ると、世界が求めていること、自分の周囲が求めていることに気づけるようになる。そして誰かの為に何かをすれば、そこに何らかの報酬が返ってくる。それが自分への自信につながる。
そんな生きがいを見いだせれば、人生の目的はおのずと決まる。自分は何のために生きるのか。自分が人生の中で探究し続けたいことは何か。
不透明な時代の中で、何が起きても、これだけは大切にしたい、ぶらさずにいたいと思うものが必要なのではないしょうか。でもそれは今までのビジネスキャリアの世界だけで振り返っても見えてこない。ライフキャリアという視点で、大きく自分の人生を捉え直すことが必要な時期に来ているだと思います。
組織がキャリア開発を支援する本当の意味
ここまで来て、ますます悩ましいと思う方も多いのではないでしょうか。
ビジネスキャリアからライフキャリアの視点にまで広げて、自分の将来を考えるのであれば、それは個人個人がすべきこと。それこそ、こうした広い意味でのキャリア開発を会社が支援する意味があるのだろうかと。
でも、こうした状況だからこそ、わたしはライフ起点でのキャリア開発を会社が本気で取り組む必要があるのではないかと思っています。その理由は以下の3つです。
一つ目の理由は、見えない人を増やさない、見えないまま会社から離れていく人を増やさないという、喫緊の課題から来る理由です。会社がやらなくても、コロナ禍をきっかけに自分のライフ起点でキャリアを見直し、動き始めている人はこれからもさらに増えていくでしょう。そういう人が考えていることと会社が向き合うことなく、その理由も明確に伝えてもらうことなく、会社から離れていくようなことが広がってしまうと、エンゲージメントがますます失われていきます。彼らの本音と正面から向き合う姿勢を示せるか、一緒に考えようと言えるか、そうしたことを対話できる環境なのかが、これからますます問われるのではないでしょうか。
二つ目の理由は、人の主体性と創造性を取り戻すという意味で、ライフキャリアの視点で可能性を探究するプロセスを一緒につくりだす必要があるのではないかということです。多くの人たちは、自分の仕事、自分の会社が与えてくれる選択肢の中で、自分の将来を考えてきたのだと思います。それがしっかり提示されている企業ほど、与えられた範囲でしか考えられない人たちを増やしていきます。そこには自分から会社の枠を超えてでもやってみたい、周りを巻き込んで新しい世界に踏み出したいという主体性も創造性も育まれていきません。今の日本企業の生産性が低いのは、効率性の問題ではなく、創造性の問題です。外の世界の知恵をもって来て、自分たちの意思と組み合わせて、新しい世界をつくりだす力です。そのためにも、一人ひとり意識を解放することが必要なのではないでしょうか。
三つ目の理由は、そうして解放された思いから未来を変えていく仕事、ビジネスが生まれるのではないかということです。これからのビジネスは、企業起点ではなく、社会起点、社会課題起点であることが必要です。自分たちが生み出しているものが、誰かの課題を解決する、社会の課題を解決するものでなければ、長期的に必要とされるビジネスにはならないからです。一人ひとりがライフ起点、社会起点で、自分たちを客観視する目を持つことで、本当に自分たちがやるべきこと、自分たちが社会に必要とされるものが何かが見えてくるのではないでしょうか。
人も組織も、今までの範囲を越えて、意識を解放し、踏み出すことが必要です。それを各人の意識に依存するのか、みんなで踏み出す仕掛けをつくるのか。関係性の中で力を発揮する日本人らしいアプローチを考える必要があるのではないでしょうか。
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