ジェイフィール2019.07.16
イベントの後半は事例紹介から始まりました。
最初にジェイフィールの重光からこんなスピーチをしました。
「社会課題は何ですか?と聞かれたら皆さんは何と答えますか?」
これは重光がフィル・レニール氏(コーチングアワセルブズ代表。ジェイフィールのパートナー)から実際に聞かれた質問です。
「瞬間的に答えるのは難しいけれども、今自分の中に何があるのか。
あるいはお子さんに聞かれたとき、社会課題って何なの?と聞かれたときにどう答えるのか。
ちょっと考えてみてください。」
重光自身は経済や少子化の問題について答えたと言います。
しかし、もっと時間軸の目線を未来に向けて考えるべきだと思い直したそうです。
個人のレベル、組織のレベル、地球全体のレベルがある。
このフレームを頭に置きながら、社会の問題、ひいては自分の幸せにもつながると思いますが、そういうことを考えてほしいと問い掛けました。
そして、そんな観点を持ちながら、3つの事例を聞いてみてほしいと紹介いたしました。
(1)渋谷区のまちづくりプロジェクト「渋谷をつなげる30人」
渋谷区副区長 澤田伸氏
株式会社フューチャーセッションズ 代表取締役/金沢工業大学(KIT)虎ノ門大学院 教授 野村恭彦氏
「渋谷をつなげる30人」プロジェクトは、渋谷区の総合政策「ちがいをちからに変える街。渋谷区」で掲げる20年後の渋谷区未来像を実現するために、渋谷区の企業・行政・NPO市民の30名が参加し、連携して「つながり」を深めながら、課題達成のためのビジネス活動を立案・実行する、まちづくりプロジェクトです。
その大きな特徴は、地域にある「複雑な課題」を、1つの組織で解決しようとするのではなく、クロスセクターで共有できる「問い」を立てることによって、解決の糸口を見つけ、イノベーションを起こそうとする、まさに官・民・多元組織が共創する活動です。ジェイフィールもメンバーの一員として参加しています。
渋谷区からは毎年2名が参加しており、澤田氏は「3期を終えて今6名が経験したことになりますが、これが60名、600名となっていけば、これはもう経営の大きな財産になっているなという感じがしています。」とのこと。
「自治体の課題をパブリックセクターだけで解決する時代はもう終わり。地域や市民、様々なセクターが協働していくことそのものがパブリックなのです」とその狙いを語ります。
運営とファシリテーションを担った野村恭彦氏は「この活動はマスの時代からローカルの時代に変わることの象徴です。ある地域に限定して、この地域の人達にとっての価値を明確に捉えることができるとNPOも行政もその企業のイノベーションを一緒に推進していくことができる。行政の側もいかに企業のイノベーションを促進できるかという観点があるし、企業側もどうしたら行政や住民が何をしたいのか、というところの理解が進んでくると、一緒にイノベーションを起こしやすくなる」と、活動の意義を振り返りました。
「行政の中にも良い感情の連鎖を起こさなくてはいけないと思っており、ミンツバーグさんの考えと一緒。①エモーション、②エクスピリエンス、③エンゲージメント、④エンパワーメント、4つのEがパブリックリレーションズであり、一気通貫のベクトルで推進したい」と澤田副区長は締めくくりました。
(2)社会課題に向けた取り組み Act Against AIDS から Act Against Anything へ
株式会社アミューズ 代表取締役会長 大里洋吉氏
株式会社アミューズは1978年設立の総合エンターテインメント企業です。音楽だけでなく、映画、演劇、文化活動など多彩なコンテンツの制作、興行、発信を行っています。そして私たちジェイフィールもグループ企業の一員となっています。
AAA(アクト・アゲインスト・エイズ)「THE VARIETY」は1993年から27年間に及び、エイズ撲滅と啓発活動を行なってきました。俳優の岸谷五朗さんが呼びかけ人となり、多数のアーティストが協力しチャリティーライブを行い、その収益金の全てをエイズに苦しむ人びとへの支援として寄付してきました。。
エンターテインメントを扱う会社だからこそ、多くの人が知らない社会課題をわかりやすく心に響くかたちにして伝え、賛同者を巻き込むことができると言います。
「アミューズには〝感動だけが人の心を打ちぬける〟という理念があり、感動に紐づいた情報は人の心に残りやすいと私は思っています。お客様の心に残り、それが友人、家族にもどんどん伝播していきます。エンターテインメントを楽しみながら、かつ社会貢献もできたとお客様が思ってもらえるイベントがこのライブ興行です」と、AAAに携わる山本尚子氏と中出綾香氏は語ります。
同社はこの活動を慈善事業とだけ考えているわけではなく、こういった社会のことを知って、社員やアーティストが成長することで、よりよい活動ができるようになると考えています。今後はAct Against Anything と名称を変えて、他にも解決の手を必要としている社会課題に積極的に取り組んでいくことを発表しています。
(3)「人のための組織」の実現をめざした取り組み
株式会社サイゼリヤ 取締役戦略インフラ本部長兼人事部長 松谷秀治氏
事例の最後は、参加者にもおなじみのイタリアンレストラン「サイゼリヤ」の組織変革の取組みです。同社は1973年の創業当時から、「サイゼリヤに携わるすべての人びとが幸せになる」という、食を通じて社会を変えるビジョンを掲げ、低価格でおいしく、多彩なイタリア料理の食文化を提供してきました。松谷さんは1984年、グループ店舗がまだ10店の時代に入社した古参メンバーです。
「社会貢献に何があるのか、入社のころに3つ言われました。1つは、衣食住の暮らしの中で、われわれが豊かな食生活を与えることによって楽しんでもらいたい。もう1つが、税金をきちんと払えるように利益を上げること。もう1つは、雇用を創出することです」
この3つの社会貢献は企業の成長によって実現できましたが、同社内には新たな課題が生まれます。それは、成長期から成熟期に入ったことによって生まれたジレンマでした。
成長している時は社員のモチベーションも高まり、大勢の仲間が入ってきます。それが成熟になって成長がストップし、取り組まなければいけない課題が目につくようになり、同社もいろいろな改革施策を導入するようになりました。
マネジメント改革の必要に迫られ、まず手掛けたのが管理職の教育でしたが、「いくら上を教育しても上から下に降ろすだけ。コミュニケーションがなければ下まで行かない。下からも上がってくる双方向のコミュニケーションの形でできていないと浸透していかないというのが現実でした」と松谷氏は語ります。
この状況をどうしていけばいいのかと悩んでいた時に、リフレクションラウンドテーブル®に出会い、対話の技術の向上と話し合える風土づくり、学び合える組織づくりに取り組み始めます。
「うまくいっているかと問われれば、はっきり言ってまだまだです。従業員たちが自分で考えて自主的に動けるかたちにならないと何の意味もない。上から一方的に決まったことだけを押し付けるのではなくて、自由度を与えてその人たちが自由に考え、その中からリーダーシップをとる人たちが出てくるというしくみにしなくてはいけない。みんなが楽しみながら実践できるように教育を変えていこうとしています」
同社は今、階層のないフラットな組織づくりに挑戦しています。創業の理念にもう一度立ち戻り、人づくりと組織づくりを再構築する変革の道は、始まったばかりです。
3つの事例を終えて、いずれも共通しているのは社会や地域への取り組みが、「遠い誰かのため」「やらなくてはならない義務感」というよりも、「社会全体の幸せが自分たちのためでもある」という考えをはっきりと持っていることだと思います。
そして、それを実際に行動に落とし込んでいっているということ。
素晴らしい3つの事例から、たくさんのことを学ばせていただいた。そんな時間になりました。