和田 誠司2021.04.07
渋沢栄一と渋沢喜作を分けたものとは
3月の期末面談で取締役から
「渋沢栄一の大河ドラマが始まっているのに、和田さんは何か発信しないの? 大学院で学んだことを活かすチャンスじゃないか!」
と言われて、目が覚めた。
そうであった、私は伊丹敬之教授の厳しい指導のもと、修士論文を書き上げるために、渋沢栄一の研究をしていた。なんともったいないことをした、と思うと同時に書きたいものがこみ上げて来た。なので、渋沢研究を活かし、いくつか書き上げてみようと思う。
ちなみに、多少のネタバレが含まれているが、ご容赦頂きたい。
渋沢栄一をご存知の方も多いだろう。言わずと知れた日本の資本主義の父である。
では、渋沢喜作という人物をご存知だろうか。誰? と思った方も多いと思う。
実はこの二人は非常に親しい幼少期~青年期は非常に親しい経験をしている。幼少期は同じ剣術道場に通い、互いに剣の腕を切磋琢磨させていた。その後は横浜城焼き討ち計画にも参画し、後の第15代将軍となる一橋慶喜に仕え、栄一とともに幕臣となる。
それにも関わらず、二人には決定的な違いが生まれてしまった。
この違いがどこにあるのかと言うと、行動や思考の以前のマインドセットにあるのだと思う。キャロル・S・ドゥエック「マインドセット やればできるの研究」の中で、マインドセット=心のあり方には大きく2つあると言われている。1つ目は硬直マインドセットと言われ、「才能は変化しない、けど自分は有能だと思われ続けたい」というマインドセットを持っている人たちで、この人たちは早い段階で成長が止まり、可能性を十分に発揮できないと言われている。2つ目がしなやかマインドセットと言い、「才能は磨けば伸びる、ひたすら学び続けたい」というマインドセット持っている人たちで、全てを自由な意思で切り拓いていける人たちと言われている。
喜作と栄一はまさに青春をともにしたわけだが、その後の人生は異なる道を歩み、一方は縁を活かし日本の資本主義の父と言われるほどの人物へ、他方は縁を活かしきれずあまり知られない人物へ。この違いが生まれ始めたのは、二人が幕臣となったころにある。
横浜城焼き討ち計画で、武力をもって理想を実現しようとしていた二人であるが、その心境には違いが生まれていた。
焼き討ち計画の仲間が死んでいく中で栄一は、無駄な死と哀れむようになり、武力を持ってものごとを解決しようとする姿に疑問を持ち始め、武力行使のみに頼る以外の方法を模索していく。
栄一は持ち前のエネルギーを使い、一橋慶喜に初めて面会をしたときに、いきなり建白をし始める。恐らく当時の幕臣たちは、肝を冷やしたことだろう。ただ、慶喜はその建白を止めることなく聴き続けた。ここから栄一の建白グセは強くなる。
ただ、このときの栄一の建白の質が高くはなかった。
このときの建白を要約すると、
「幕府の寿命は短いから、距離を置くべき」
というものであった。やや他人事のようにも聞こえるし、どうすればよいのかも見えてこなかった。
ただ、その後の建白はその質は当初のものとは違い、藩の経済力や防衛力を向上させるための建白は見事であり、聴者に具体的なイメージをわかせ、可能性を感じさせた。
藩の未来のためにと常に考えていた栄一は、他人事のような理想論から、すぐに行動ができそうな具体的な策を仕上げるまでに、建白の質が変化した。
では喜作の方はというと、横浜城焼き討ち計画を実行しなかったことを悔やみ続け、果たせぬ夢を果たしたいと、思いを強めていった。彼は武にこだわり続けたのだ。
また、栄一が建白しているときも実直で真面目な喜作は、彼らしく二人のやりとりを見続けていた。
仕事をし始めてからも、与えられた仕事を真面目に文句も言わずに、しっかりと行っていた。
実際、喜作の実直で真面目な勤務態度は高い評価を得ていて、昇格し続け、一部隊を任せられるまでに至る。
彼の武へのこだわりのおかげで掴みとったものだろう。別の言い方をするとこだわりを強めてしまい、その後の人生で彼の才能を発揮しきれなかったのかも知れない。
さて、ここまで栄一と喜作を比較して分析してきたわけだが、栄一は自由奔放で、新しいチャレンジをし続け、周りをワクワクさせるが、ひやひやもさせる。反対に、喜作の方は、実直真面目で、相手を安心させるが、ワクワクさせることはない。
誰もが栄一のようになることは難しい。ただ、彼のように人のため、社会のために自分からチャレンジして、失敗から学び続けるという気持ちを持つことは誰もができることだろう。
もしくは、今の時代には喜作のように、こだわりを持ち、行動し続けることが必要なのかも知れない。ただ、真面目でこだわりがあることはとても良いことではあるが、
もしかしたら新しいチャレンジのチャンスを見逃してしまう可能性もあるので、しなやかマインドセットは忘れずに。
「最近不安なことがいっぱいで人のためにとか考えていないな」。
「毎日同じことの繰り返しで面白くないな」。
「あのときのあのことがなければ今はきっと・・・・・・」。
と思うことがあったら、今一度、二人の精神に浸ってみるのも良いかも知れない。
皆さんのより良い未来を願って(了)
参考図書:
城山三郎 「雄気堂々 上下」新潮文庫
渋沢栄一 「雨夜譚」岩波書店
キャロル・S・ドゥエック著「マインドセット やればできるの研究」草思社
筆者:
株式会社ジェイフィール
和田 誠司
*こちらのコラムはnoteでもご覧いただけます。
ぜひ、フォローください!