小森谷 浩志2025.01.14
要旨:
2020 年初頭から世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症によって、われわれは未経験の環境に投げ込まれた。社会的にも経済的にも大きな混乱の中で、多くの企業は、存在意義そのものの観点から、根本的な一石を投じられたといえよう。そして存在意義の問題は、企業だけではなく、働く一人ひとりに突きつけられた問いでもある。本稿の目的は、急激な環境変化のなかでの企業家の内面のあり方の考察である。特に不透明で不確実な時代における、企業家自身の自己変容に焦点をあてて考究する。「自分は何者か」、「いかに生きるべきか」という根源的な自覚のための優れた伝統の代表に仏教の一派としての禅がある。禅の基本書である「十牛図」を手がかりとして、単に量的な変化にとどまることない、動的で質的な変化、つまり自己変容の方法論のモデル化を試みることとする。結果として、企業家の変容の道標となる「自己変容サイクル」を導出するに至った。
目次:
1.はじめに
2.研究方法
3.不確実で不透明な時代に企業家に求められること
4.禅の入門書「十牛図」の概要
5.「成人発達理論」における発達
5-1.成人発達の過程の進展
5-2.成人発達の進展を後押しする往還活動
6.自己変容のサイクル
6-1.自己変容サイクルの概要
6-2.自己変容サイクルの実際
7.自己変容サイクルを通じた考察
7-1.5段階の自己変容サイクルの特徴
7-2.自己変容における留意点
8.おわりに
Key Words:企業家、自己変容、成人発達理論、自覚、十牛図
はじめに:
本稿の目的は、不透明で不確実な時代における企業家(entrepreneur)のあり方の考察である。特に根源的なあり方の考究のため、その自己変容の過程に着目していく。新型コロナウイルス感染症は、多くの人に「ステイ・ホーム」を強要し、移動する、集まることの激減をもたらし、経済活動に多大な影響を及ぼした。企業では、以前から「働き方改革」
において推進されてきたリモートワークの動きが、首都圏に本社機能を持つ大企業中心とはいえ、一気に加速することになった。いわゆる通勤地獄に悩まされていたビジネスパーソンのなかには、働く場所、時間の自由度が高まった者も多くいる。一方で、物理的距離がある中でのマネジメントやチームビルディング、価値創造、イノベーションなど新たな
課題にも直面することとなった。筆者は、出社禁止が発令されるなど、緊張感が高まる2020 年4 月下旬、アンケートを通じて291 名の声を集めた。厳密な調査よりも、刻々と変化する状況において、アンケートだけでは拾いきれない声も重要であると捉えるとともに、現状に光明を見出すことの重要性と緊急性を鑑み、アンケート結果を踏まえて5 月と6 月に「人と組織を考える」をテーマに約100名との対話会を継続して行った。アンケートから対話会まで、貫かれた大きな問いは「新型コロナウイルス感染症は、われわれに何を問い掛けているのか」であった(小森谷、2020)。
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