高橋 克徳2023.11.09
なぜ、日本企業は競争力を失ったのか
日本のGDPは世界第3位。アメリカや中国に大きく引き離されたとは言え、世界経済の担い手として重要な役割を担っていることに変わりはありません。
でも、かつては「Japan as No1.」といわれ、バブル期まで世界の目標となってきた日本企業の経営力、マネジメント力は、今でも高く評価されているのでしょうか。
IMD(国際経営開発研究所)が実施している世界競争力年鑑という調査があります。現在、世界63か国で実施されているもので、経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラという4つカテゴリー、337の指標を比較し、国や経済の競争力を比較するものです。統計データと各国の経営者が自国の競争力を評価したものです。日本は1992年まで世界第1位、1996年時点でも世界第4位でした。
しかし、バブル崩壊で1998年から2018年までは世界の20位台を推移、2019年から現在にいたっては世界30位にまで低下しています。その大きな原因になっているのが、ビジネスの効率性です。さらにその中でも特に世界最下位ともいえるのが経営プラクティスという項目です。企業の俊敏性、機会と脅威への迅速な対応、顧客満足度、マネジャーの信頼度、社会的責任、女性活用などの指標からなるものです。
ちなみに、シンガポールや香港、台湾などのアジアの国やデンマーク、スウェーデン、オランダなど北欧およびその周辺の国々、そしてカナダとアメリカです。
日本の経営を統計データや経営者の認識ベースでみると、時間効率性が低く、自ら変化する力、新しい動きに適応する力が極めて低い状況にあるということです
みなさんはこの事実をどう受け止めますか。
同質性、統合性を追求する日本企業のマネジメント
日本企業の経営、マネジメントを一言でいうと、同質性、統合性を重視するマネジメントではないかと思います。
最近では変わってきたとは言え、男性中心、新卒採用中心、プロパー中心の組織運営を行ってきました。同質性の高い人たちを集め、同じ場所、同じ時間で、同じように働く。だから、そこに一体感も生まれ、組織のために働こうという社員を増やしていける。これが日本のマネジメントの根幹にあります。
会社の論理を身に付け、会社が期待している通りの行動を取れる人を再生産していくメカニズム。そして、目的と目標を与え、そこに向かって人を動かしていく、管理していくことが、マネジメントそのものであるという考え方。
その結果、何が起きていたのでしょうか。
まさに、同質性の高い人、同じような場面で同じような判断をしてしまう人、会社の論理、会社の目標に従順な人、仕事を与えられることを待つ人、変化に弱い、変化に抵抗してしまう人、自分の責任だと自分で自分を追い込む人・・・。
確かに、環境変化が少なく、先が読める経営を行っているときは、こうした同質性を高める経営は、判断と行動の統合性を高め、全体として効率的な経営ができます。日本的経営の強さは、ここにあったように思います。会社の論理をみんなで共有しているからこそ、逸脱行為が起きず、会社のためという行動が起こる。
でも、変化が激しい時代、先が読めない時代の中で、こうした同質性、統合性を高めるマネジメントでは、内なる論理が優先され、外の変化への感度は低下し、多様な考え方や論理を吸収する力を弱め、自ら考え、行動する力を奪い、他者とは違う視点で考え、柔軟な解決策や新たな取り組みを創造する力を抑制してしまう。まさに思考と行動の主体性も創造性も発揮できない組織を創り出してきたのではないでしょうか。
自分たちはそうならないように個々人に考えさせ、自分でチャレンジする仕組みを入れならが、主体性を引き出してきたという会社もあると思います。でも、本当にそれは自らの意思に基づく主体性なのでしょうか。主体的に考え動かなければならないと強いてきた結果、目の前の目標に向かって動いているだけで、先が見えない中でも自ら未来を切り拓こうとする、そんな主体性や創造性が引き出されているのでしょうか。
会社をより良く動かしていきたい。だからこそ、こうしなければ、これが最適だ。そう思って同じ方向に向かせ、動かすことをマネジメントだと思っていると、結局、柔軟にやり方を変え、自ら変化することができない人と組織になっていくのではないでしょうか。
さらに人の多様性が進むと、どうマネジメントすればいいの?
さらにここに来て考えなければならなくなってきたのが、人の多様性です。
この時の多様性には、3つの意味があると思っています。人員構成上の多様性、働き方の多様性、価値観の多様性です。
日本全体で見れば、労働人口は大きく減少し、高齢化していきます。デジタル技術やAIによって人がやらなくても良い仕事も増えていくかもしれませんが、全体に見れば人手不足になる企業は増えていくとみられています。若手社員は特に人口減少の中で獲得が難しくなる。人が集まる企業になるか、採れない企業になるか、シニアや女性、外国人、障がい者なども積極的に採用しながら、いろんな人たちと共に働く企業になるか。難しい状況に置かれる企業は増えてくると思います。
その中で、働き方の多様性がさらに促進されるだろうということです。リモートワークを経験して、自分のライフスタイルを変えようという人も出てきています。住む場所を変え、働き方の自由度を求める人もさらに増えるでしょう。副業を始めたり、社会活動をする人も出てくる。女性活躍推進に本気で取り組むなら、男性も含めて、長期の育児休暇を取得したり、時短での働き方ができるようにしていくことが必要になる。一人ひとりが違う働き方をする。そんなことが当たり前になるかもしれません。
さらに、その根幹に仕事への姿勢、考え方も多様化している。仕事中心、会社中心世代からすると、仕事にコミットし、成果を出し、会社に貢献することが、働くということだと思ってきたし、だからこそ責任感が大事だと思ってきた。でも、ライフ中心、自分中心の人からすると、その仕事をすることが自分にとって意味があるか、自分が楽しいか、それこそ無理をしないということが大切になる。会社のために、会社が求めるからこうしなさいということが、自分にとってストレスになる、自分のライフに良い影響を与えないのであれば、転職を考えようという人も増えていく。
もうすでに、こうした変化と向き合いながら、どうしていいのか迷っているマネジャーや経営リーダーたちも多くいます。若い世代の考え方が理解できない、会社としてどこまで自由度のある働き方を許容できるか、本当に人が集まる会社であり続けられるのか。
ただでさえ、環境変化のスピード、予知できない変化が起こるVUCA時代。経営リーダーやマネジャーがいつでも正しい方向付けをできるわけではない。だからこそ、現場の感覚や現場の知恵や判断がこれまで以上に重要になる。
でも、人の多様性はさらに進んでいく。コミットメントの意識にバラツキが出てしまう。そういう人たちにどう働きかけ、どうマネジメントすればよいのか。本当に難易度の高い問題に直面しているのです。
多様性と重合性のマネジメントへの転換
日本企業は同質性の高い集団をつくり、統合性を高めていくマネジメントを行ってきました。その結果、人の主体性や創造性が奪われ、自らの意思で未来を切り拓いていく人材が不足しているという共通の課題に直面しています。
同時に、その中で人の考え方、生き方が変化してきている。仕事中心、会社中心の働き方、生き方を見直していく人、実際に多様な働き方をせざるを得ない人たちが増えていく。そうした人たちの主体性や創造性を引き出し、未来をともに切り拓いていく会社をつくっていくために何がカギになるのでしょうか。
まず大切なことは、「違い」を知る、活かす、楽しむことを組織の土台に置くこと。今まで、「同じ」「期待通り」が何よりも優先されるマネジメントであったものを、「小さな違い」「小さな逸脱」を優先するマネジメントに切り替えていくこと。
本当はどんな人にも、その人らしさ、その人の中にある持ち味がある。それはその人の自然な振る舞いの中から見えてくるもので、会社が期待している行動や成果を出しているかという目線では見えてこないもの。こうした小さなその人らしさ、持ち味を軸に、個々人が自分の力を自然と出していけるような、そんな支援、サポート、関係・環境づくりがカギになるのだと思います。
もう一つ大切なことは、「重ね合う」というマネジメントも組織の根幹に置くことです。多様な人たちを一つの論理を示し、そこに向かせようとすると、その時点で人の主体性や創造性をこれまでと同じように押し込めていくことになる。
会社の目的、パーパスを提示したとしても、それをただ与えて、理解させ、そこに向かって行動を取るよう指示し、それこそ人事制度で評価してしまったら、そのパーパスは働く人たちにとっての主体的なパーパスにはならない。
大切なのは、会社の思いを自分たちの思いと重ね合わせる、個々人の問題意識や悩みと重ね合わせ、そこに意味を見出す。そうした「重ね合わせ」のマネジメントを繰り返していくことだと考えます。
そのプロセスの中で、人も組織も互いを知り、互いを活かし合い、思いが重なるところに小さなコミットメントが生まれ、それが連鎖して大きな動きになっていく。こうした「多様性と重合性のマネジメント」を軸にしていく必要がないのか。みなさんの会社でも対話してみていただけたらと思います。
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