重光 直之2025.03.12
実際に、あなたがマネジメントシェアリングするとしたら、真っ先に頭をよぎるのは、誰とシェアするのか、ということでしょう。自分によく似た人がいいのでしょうか、それとも正反対の人がいいのでしょうか。何よりも、どこで見つけたらいいのでしょうか。近年、急激にシェアリングが進んだドイツに、導入の事例を見ていきましょう。
補完関係の世代間タンデム方式からマッチングアプリの導入へ
ドイツでは、一つのマネジメント職を二人で行うことを、タンデム方式と呼びます。レジャー施設で見かける二人で一つの自転車を漕いで遊ぶ、二人乗り自転車がタンデムで、それになぞらえて命名されました。
ボッシュ社は、2010年代以降、子育てや介護などの「家族時間」を大切にする働き方への対応を進め、2015年からは管理職層へもタンデム方式を導入しました。当初は、世代間タンデムというやり方で、経験を積んだ年配者と、仕事経験が少ない若い人がコンビを組みました。異なる強みを持つ人を選んでコンビを組むわけですが、人づてで探すには限界があるので、翌2016年には社内にジョブシェアリング(マネジャー層に限らず)を行うパートナーを探すアプリが正式に導入されました。
マッチングアプリと言えば、日本でも昨年夏、結婚相手と出会ったきっかけNo.1はマッチングアプリという結果(こども家庭庁調査)が出たように、人と効率的に出会うにはシステムやAIの力を借りるのが良さそうです。ニーズがあれば、瞬く間に普及が進むと思います。
対話を通じて互いの相性を確認する、そして継続的に時間を共有する
同じくドイツのVR銀行(フォルクスバンク・ライファイゼンバンク)の事例では、人を仲介して出会った二人が、最初に自己紹介をして互いの相性を確認するステップを踏んでいます。インタビューをした研究者である田中洋子氏(筑波大学名誉教授)は、「共感力、考え方の近さ、コミュニケーション力、妥協できる心構え、信頼感」などが大切だと聞き出されています。
これは面識のない二人が人を仲介して出会う、言わばお見合い型でしょう。出会いを大切にしつつ、互いを見極めるステップが重要です。そこでは、会って話して感じる、言語化できない相性が必ずあると思います。
鉄鋼・機械大手のテュッセン・クルップ社におけるインタビューでは、実際のマネジャー同士が出会った時、「テーマ重視、解決志向である所が似ていて、『この人とならいける』、『ウマが合う』と二人とも思った」そうです。相性に加えて、仕事の流儀といったものも、大切な要素と言えるでしょう。
そして、シェアリングを始めてからも、週に一度は一緒に出社して時間を共有し対話を重ねています。前述の事例に限らず、多くの企業で述べられているポイントでもあります。
異なるバックボーンや強みを持つ二人が高め合う:前提にリスペクトする気持ち
すでに事例の中でも記述したことですが、これまで見てきた事例では二人が持っている強みやそのバックボーンとなる経験は対照的なものばかりでした。マネジメントの質を上げるためには、同質でなく異質な組み合わせが良いという、至極当然な結果と言えます。
しかし、もう一つ大切なことは、異なるからこそ、互いに認め合えるという点です。意思決定においては、大なり小なり意見が食い違うのが日常です。その時に、安易な方法で結論付けることは絶対に避けるべきです。ハーバードビジネスレビューには、「共同CEOは1セント単位まで同額の報酬にする」ことが成功の秘訣だという事例が紹介されています。つまり、まったくフラットな関係の土台の上で、二人が意思疎通を図り、一つの結論を出していくことが重要です。異なる意見から新たな解を見い出したり、相手の意見が適切だと素直に認めたりすることが必要で、そのためには、互いをリスペクトする関係が不可欠です。
私もそうですが、人は誰しも、似ている人より、自分とは異なる人に対して素直になれる/リスペクトすることが、容易だと思います。マネジメントシェアリングについて、イメージが膨らみましたか?
次回は、「何がシェアして得られるのか」について考えたいと思います。
(参考文献)田中洋子 2020 『ドイツ企業の管理職における短時間パート勤務とジョブシェアリング』筑波大学地域研究41,9-29
マーク A. フェイゲン他 2022 『共同CEO体制を成功させる方法』 ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー11月号