和田 誠司2023.08.17
会社DATA
本社所在地 :東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター
創業・設立 :1935年6月
代表者 :時田隆仁
従業員数 :124,055人(2023年3月末時点、グローバル)
事業内容 :サービスソリューション、ハードウェアソリューション、ユビキダスソリューション、デバイスソリューション
URL :https://global.fujitsu/ja-jp/
インタビューイー
富士通株式会社 Employee Success本部
Engagement& Growth統括部 キャリアオーナーシップ支援部
シニアマネージャー 武田 学氏(写真左)
藤原 良枝氏(写真右)
全体概要
富士通では、社員一人ひとりが自分らしさを意識しながらより良い生き方・働き方を自ら考え、自らキャリアの舵を握る「キャリアオーナーシップ」を推奨しており、「グッドキャリア企業アワード2022」にて 「キャリアオーナーシップ支援プログラム FUJITSU Career Ownership Program(FCOP) 」がイノベーション賞にも選ばれています。
FCOP※の一環で初年度の2021年に実施したのが「全社員向けeラーニング」と「キャリアCafe」になります。同世代との対話で自らの「キャリア」を考える「キャリアcafe」を導入するに至った課題感(背景)とその効果、そしてこれからの展望を、キャリアオーナーシップ支援部にて「キャリアcafe」の立ち上げに携わったお二人にインタビューしました。
※「FUJITSU Career Ownership Program (FCOP) 」について(プレスリリースより抜粋)
社員が3年後の将来のありたい姿を描き、どうチャレンジしたいかの成長ビジョンを設定し、組織ビジョンとアラインし、上司と1on1で対話の上、自律的なキャリアの選択が可能となるよう支援しています。また、随時、社内キャリアカウンセラーへの相談もでき、必要なスキルはオンデマンドでいつでも学ぶことができます。また、キャリアオーナーシップを考えるイベント、学びをテーマにした全社イベントを実施しています。
課題
「富士通では、将来のありたい姿を描きその実現に向けて自ら行動を起こす『キャリアオーナーシップ』を導入していますが、それまで会社主導だった人事異動やキャリア形成の習慣をなかなか急には変えられませんでした。導入にあたり経営層メッセージや全社共通eラーニング等を実施し、会社の方向性や新たな考え方を伝えた上で、自分自身のために行動をどう変えていくかを具体的にイメージするためには、世代ごとに違うキャリア意識を考慮したアプローチも、併せて行う必要があると考えました。」と、キャリアコンサルタントの藤原さんは当時を振り返ります。
同社ではやりたい仕事に手を挙げて挑戦する「ポスティング制度」も採用。それは自分でやりたい仕事に挑戦できるチャンスもありますが、裏を返せば常に学び成長し続けなければ、やりたい仕事に就けないという厳しい現実でもあります。
全社員が「パーパス・カービング」※を実施していますが、「キャリアオーナーシップ」をもって実際に行動を起こすまでには、さらに何らかの施策の検討が必要だったようです。
「解決するひとつの方法として、世代ごとに『キャリアcafe』という『場』を作りました。
ジェイフィール様にお願いした世代は50代一般社員で、対象層をヒアリングしたところ、キャリアを仕事に限定して捉えていたり、自分軸を意識できていない姿が見えてきた為、これまでの経験から得た強みに自信を持っていただいた上で、人生100年時代において、自分がどんなキャリアを望んでいるか、どんなキャリアを描けるのか、あらためて軸を言語化し、自分らしいキャリアを考えてみる時間をとってほしいと思いました。」
※「パーパス・カービング」
個人が働く事や生きる事の意義を改めて見つめ直し、仲間と対話しながら自身のパーパスを彫り起こし形にしていくプログラム。一人ひとりのパーパスと、富士通のパーパスとの重なり合いが、変革への原動力となる。
解決策
同世代との対話を通じてキャリアを考え、行動を起こす気づきときっかけを得る場「キャリアcafe」ではなぜ「対話」に着目したのでしょうか?
「様々な知識を『聞く』だけでなく、自身の思うことを話して『言語化』することで、より具体的なイメージを描くことができるようになります。従来のキャリア研修でも一番効果を上げている『グループ対話』の部分を凝縮して提供できないかと考えました。全社的に、キャリアオーナーシップ経営への転換と同時に、人事制度や働き方、研修の在り方をフルモデルチェンジしたタイミングでもあり、キャリア研修も従来の長時間かけてじっくり内省するという方法から、全く違う、短時間で気づきの多い方法に変化させ、研修の実施方法からも、キャリア形成の考え方が新たなものに変わったという印象を強く持ってもらえたらという思いもありました。」
時間と場所を選ばないオンライン研修は便利である一方、リアリティに欠けて対面よりも効果が薄れる場合もあります。様々な研修プログラムを用意してきたからこその課題もしっかり把握されていたようです。又、実際には研修ではありますが、このプログラムに「cafe」という名を付けた理由については、「従来の研修というイメージを払拭するために、あえて『cafe』という名前にしました。また仕事だけでなく『ライフキャリア』を考えてもらいたいと思っていました。人生100年時代と言われているように、富士通にいる間だけでなく、その後の人生も考えた時に今何をすべきか、をライフステージが同じ年代の人同士で語り合えたらおのずと明確になってくるのではないか。その際、『cafe』で気軽におしゃべりする感覚で参加できる『場』を作ることができれば、キャリアの悩みや現状、描いている未来について、心を開いて話してくれるのではないかと考えたのです。」
キャリアCafeは、初年度は10年きざみの5世代(社会人3年目、20代後半、30代後半、40代後半、50代後半)に対し、気軽に参加してほしい、ということで、時間も最大で4時間で実施。各層それぞれの課題にフィットするよう、限られた時間の中で、構成や対話のテーマ設定にかなり悩まれたようです。同年代ならではの悩みや目標を共有し、自分自身のキャリアを考えるきっかけを得ることで新たな目標に向かって学び直し、チャレンジする社員が増えていっていると言います。
又、武田さんは「富士通では多くの社員が様々な仕事をしているので、『キャリアcafe』で出会った新たな他部署の人との交流が新たな気づきを生む、という多様性を認める相乗効果もありました。」と語ってくれました。
成功のポイント
各世代で開催している「キャリアcafe」。その成功の要因は「cafe」の形式がとてもフィットしていたと藤原さんは言います。
「特にミドル・シニア層は経験も豊富ですし、ご自身のお話をされるのも、他の方のお話を聴くのも上手で、場の趣旨を理解してくれながら対話も盛り上がり、とてもスムーズに進行することが出来ました。又、4時間中、最初の1時間だけはイントロダクションのインプットの時間ですが、次の2時間目以降は対話の時間で、自分のグッドジョブ(印象に残ったこと)を振り返り、自分の軸を見つめ直す時間、最後の1時間は軸を活かした目標づくりと仲間へのフィードバック、そして今後1週間以内に起こす具体的なアクションを発表する時間と、対話やフィードバックの時間に3時間使い、仲間の力も借りながら自分の言葉で言語化してもらったことがすごく重要だったと思っています。」
会社生活30数年の中で、なかなか自分自身の体験や心に残っている事、大切にしていることを人に話す機会も聞く機会も少なかったようですが、「cafe」と名付けられた「場」だからこそ、心をオープンにして対話を楽しんでもらえたようです。又、この「cafe」時間中に明らかに「空気感」が変わるようで、参加前までは何となくぼんやりしていた「キャリア」について、徐々にクリアになってきて、ワクワクした気持ちでこの先の人生を考えたり、今後の行動に前のめりになっている人もいると言います。
参加者側にも、ビジネス環境の変化が激しい中で「キャリアを考えなくてはならない」という思いはあり、Cafeの場が良いきっかけになったようです。
キャリアCafeを丁寧に進めてきたことで、社員のキャリアオーナーシップは確実に進んでいるようです。さらに、この「キャリアcafe」を通じて新たな「コミュニティ」も生まれつつあるようで、対話の中で「あんなことやこんなことをやりたい」という話が出ると、他の参加者から「そうであれば、あんなコミュニティがあるよ」「どこそこの誰それに会ってみれば」など、社内で多種多様なつながりが出来ていると言います。
最後に今後の展望をお二人に伺ってみると、「この『キャリアcafe』をきっかけに、もっともっとご自身の『ライフキャリア』について身近に感じてもらいたく、迷ったら社内の『キャリアコーディネーター』『キャリアカウンセラー』に相談してもらいたい。」とのこと。そして今後、キャリアオーナーシップが定着していくことで、世代に関わらず、個々のキャリアの状況にフィットした「テーマ別cafe」に開催単位をシフトさせ、自らが選んだ社内のコミュニティから新たな「キャリア」に向けた行動を起こしてもらうのが理想だそうです。
ワクワク前のめりに「ライフキャリア」を考え実行する富士通の「キャリアcafe」。また2年後、3年後にどんな「cafe」コミュニティが立ち上がっているのか楽しみです。
担当コンサルタント、和田より
富士通さんでは主体的なキャリアを歩むための支援施策がとても充実しています。人事制度、教育内容、上司との1on1などすべての施策が一人ひとりのライフキャリアを考える機会になっていることは間違いありません。各種のキャリア支援施策は日本企業でフロントランナーと言えるでしょう。このような施策をすることで、一人ひとりがキャリアを主体的に考える機会と裁量権が持つことができます。結果として、社員一人ひとりが活力を持てるようになります。
中には、一人で考えることが苦手で同時に悩みを持つ人もいると思います。そのような人たちのために設けられているのが、「キャリアcafe」だと私は考えます。気軽な対話の中で気づくというコンセプトのおかげで、参加者はとても楽しそうに対話をしています。この「キャリアcafe」を受講したら、キャリアを考えることは不安というマインドから、キャリアを考えることは楽しいというマインドに変化します。
特にこうした対話を中心にしたプログラムにフィットするのが、ミドル・シニア層です。ミドル・シニア層向けプログラムは3つのポイントがあります。ポイントの1つ目は藤原さんもおっしゃっていましたが、ミドル・シニア層の経験はとても豊かで、対話する材料が豊富にあることです。そして、この層は挑戦意欲も有り、今でもチャレンジをし続けています。そういう人の話は周囲に良い刺激を与えてくれます。ポイントの2つ目は、豊かな経験に加えて、ミドル・シニア層は共感力も高いということです。共感力が高いため、お互いの話を聞いているだけで自然と尊重し合うようになります。そして、最後のポイントは相互フィードバックです。残念ながら今のミドル・シニア層でポジティブなフィードバックをもらった経験のある人は多くありません。仲間からのフィードバックを受ける前は「自分の経験は大したことない」という謙虚過ぎる状態ですが、フィードバックを受けた後は「自分も頑張って来た、これからも頑張れるかもしれない」と挑戦意欲が自然と湧いてきます。豊富な経験を話す機会+お互いの共感+ポジティブフィードバック、この3つをプログラムに取り組むことでミドル・シニア層は元気になり、キャリアを自分で考えるようになります。
最後に、私はキャリアcafeの参加者を見て、日本のインフラを支える人たちの勇姿を見ました。これからも、この勇姿を後世に残すため、支援し続けます。