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変わるシリーズ② 人材育成が変わる

重光 直之2019.03.06

ご支援させていただいているある会社では、最近、人材育成という言葉は使わず、成長支援という言い方に変えている。その意図は、上司や先輩が正しく、部下や後輩を指導するという価値観を変えたいからだ。確かに、「上司が部下を育成する」とは、上司が優れているという前提があるように思える。

VUCAといわれる時代では、正しいもの、優れているものが固定的ではないはずだ。人生100年時代を迎えて、シニア・ミドル層の学びなおしが叫ばれている中、上司・先輩たちも学び、成長していかないといけない。上司・先輩と部下・後輩がともに学んでいくことが求められる。企業とすれば、ともに学びあう組織になるかどうかが、これからの競争力を大きく左右すると言ってもよい。

しかし、言うは易く行うは難しで、簡単ではない。部下・後輩から学ぶという意味あいで、リバースメンターという言葉があるが、表面的な理解にとどまっていることが少なくないように感じる。例えば、若手の意識や考えを知らないとマネジメントが難しいので、率直に言ってもらえる/聴くことができる、斜めの上司・部下の関係で行うのがよい。あるいは、SNSの活用やITリテラシーなどのスキルを若手から学ぶ姿勢を持つことが大切だ、という話をよく聞く。正直、このレベルの話を聞くと、苦しいなと思ってしまう。上司・先輩サイドに必死になって成長しようというマインドが必要だし、もっと本質的に学ぶことがあるだろう。

私自身、前回も記述したNPO(WTP:ワールドシアタープロジェクト)での経験がとても衝撃的だった。WTPでは、発展途上国の子どもたちに夢の種まきとなる映画を提供しようという活動を行っている。私が加入したとき、若い人たちが多い団体の中で、ビジネス経験からくる即戦力(?)としての期待があることはわかったし、それに応えようとも思った。しかし、すぐに自分の経験知がほとんど役に立たないことが分かり、ショックを受けた。私よりずっと若いミレニアル世代(Y世代)、Z世代の人たちのほうが、圧倒的なスピード感でいろんな垣根を越えて人々を巻き込んでいく。国内での活動だったが、マスメディアや、映画館が入っているショッピングモールはわかるにしても、田んぼアートをやるために農家の人たちとイベントをしたり、お寺の境内で上映会をしたり、母校の中学生たちにワークショップのアイデアを持ちかけたり、発想も行動力も次元が違った。

彼らにあって、私にないもの・・・、①情報への感度(⇔センスが鈍化し行動半径や入手経路が固定化している)、②発想の飛び感(⇔過去の成功体験のパターンからの発想)、③身軽な行動力(⇔リスクや未知への恐怖心、変な先読み力の高さ)、④知らない人を巻き込んでブレイクスルーする力(⇔人脈という名の固定化した仲間内でのプレイに終始)、⑤先入観なく可能性を追求する力(⇔既存の枠組みで評価・判断する、できる奴かどうかの一軸評価)。

こうして考えると、知識や人脈、経験値や判断力というものが、可能性を妨げていると感じざるを得ない。私に限らず、こうした見えない壁の中で日々を過ごしている人も多いのではないだろうか?

自分の課題をぼんやり認識できても、地に足の着いた学びはどのようにして得られるのだろうか。教育学者のデューイは「すべての本物の教育は経験を通して生まれる」と説いたが、業務と異なるNPOの話だけではなく、職場で実務に直結する学びはどのようにして得ていけばいいのだろうか。

戦略的OJTというプログラムでのあるペア(マネジャーと部下)の話を紹介したい。前年も同じようなプログラムに参加したが、上司が育成するフレームで進んだので大きな変化は得られなかった。しかし、今回は「フラットで相互に学びあう」というコンセプトで進んだので、1on1を通じて関係性が大きく変わった。上司は、1on1が業務報告の場にならないように心がけ、部下は上司の殻をどう破ろうかと工夫を重ねた。二人は、部下の成長テーマ「垣根なく不安を抱える人と共生できる」を頭の片隅に置きながら、日常の様々な対話を半年ほど続けた。上司は振り返って、「日常の中に新たな発見があり、語ることで反応をもらい、気づきが生まれて成長につながった」と語った。部下を人として知り、その不安を解消していくことに取り組むと、チームの問題を事前に防ぐことにつながった。「互いを理解しあうようになると、業務報告は極論すれば必要ない」とまで上司はコメントした。報告すべき問題が表面化する前に共有され、解決に取り組んでいったからだろう。

上司と部下、傍から見ると、上司の変化度が圧倒的に大きく、一皮むけたように見えた。このケースに限ったことではないが、人は大きく変化したとき、驚くほど本人にあまり自覚はない。内面から起こる変化は、きわめて自然だからだと思う。

成功のポイントを聞かれると、上司は、①マネジャーという立場を離れる、②業務ではなく個(その人)に焦点を当てて傾聴する、③何かあるとアドバイスはしないが成長テーマに立ち戻ることにした、の3点を挙げた。「フラットで相互に学びあう」ということを、上司の立場でとらえると、この3つがマインドセットのポイントになるようだ。部下と向き合う時の心の持ちようは、このように具体的に示すべきだと、研修の参加者に教えてもらった。

「正解を持っている上司が部下を指導・育成する」から、「上司・先輩と部下・後輩がフラットで相互に学びあう」へ。・・・コンセプトの理解は徐々に浸透しているが、何を学ぶのか。そのために具体的にどう進めたらいいのか。すでに、実践のフェーズに突入している。

皆さんの職場では、どのような実践が行われているでしょうか。多くの経験を交流する中で、この変化をより確かなものにしていきたいものです。皆さんの事例(成功だけでなく、失敗や悩みも)をぜひ、教えてください。一緒に試行錯誤していきたいと思っています。

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